其之十八「D.B.奪われる!!」は、無印序盤の“旅”パートが一気に大きく転がり始める転換点。ピラフ一味が原作に初登場し、悟空たちが集めてきたドラゴンボールを一挙に奪取します。
掲載は『週刊少年ジャンプ』1985年18号(日本での初出は1985年2月12日)。対応するアニメは無印第10話「D.B.うばわれる!!」。コミカルなドタバタの裏に、敵側の情報戦と機動力がきっちり描かれているのが見どころです。
あらすじ
一星球の反応を追って移動する悟空・ブルマ・ウーロンの一行。車内でブルマが「七つ集めて彼氏を手に入れる」目的をさらっと明かし、ウーロンが呆れる――この軽口の裏で、巨大キノコの上から女スパイ(マイ)が一行を観察。無線で首領ピラフと相棒(旧称ソバ/のちのシュウ)に連絡を入れます。
間もなく、ソバが操縦するピラフマシンが不意打ち。

車は大破し、サブバッグごとドラゴンボールをかっさらわれます。悟空は筋斗雲で即座に追撃するも、機体は囮で空――戻って報告すると、ブルマは「まだ四星球がある」と気丈に言う……が、代替の乗り物を出そうとして“カプセル一式も盗まれたバッグの中”だったことを思い出し、完全に足が奪われたことが判明。
ここで、遠巻きに様子を見ていたヤムチャとプーアルが観念して合流。敵のアジトを尾行し、ピラフ城へ。
一行は城の外壁から内部へ忍び込み、無人の通路を進む。しかし行き止まりと思えた壁が仕掛けになっており、まんまと罠に落ちる――「そんな露骨な罠に」とモニター越しにピラフが半ば呆れるほどのベタな機構。

ここで次話「ついに竜あらわる!」(其之十九)への引きとなります。
押さえておきたいポイント
1) ピラフ一味、原作での本格参戦
アニメでは第1話から顔見せしていたピラフ一味ですが、原作で三人組(ピラフ/マイ/シュウ〈初期表記はソバ〉)が実働部隊として動くのは本話が実質スタート。
以後、城・罠・合体ロボという“科学力”を武器に、悟空たちと対峙します。初登場と構成員の扱いは原作とアニメで差がある点を覚えておくと、見返しが楽しくなります。
2) “盗まれ方”が上手い:情報→奇襲→移動手段剥奪
奪取手順は(A)高所からの目視+通信、(B)移動中を狙ったピンポイント奇襲、(C)囮機体で追撃かわし、(D)被害側の機動力(ホイポイカプセル)も同時に奪う――と合理的。
特に(D)は“追跡不能化”に直結し、旅パートで積み上げてきた優位(カプセル万能感)を一時的に無効化します。物量や腕力ではなく、観測・段取り・装備で勝つタイプの敵像がはっきり提示され、後の“監禁室”や“合体マシン”にもつながる設計です。
3) 四星球だけが残る意味
悟空が肌身離さず持っていた四星球(じっちゃんの形見)だけが手元に残る――この配置が後々の“全回収→神龍出現”へのカウントダウンを作り、同時に読者に情緒的な支えも残す巧いバランス。
ピラフ側の「最後の1個が近づいてくるぞ」というモニター描写は、敵視点の“逆追跡サスペンス”になっていて、ページのめくりを強くします。
4) ヤムチャの合流は“利害一致”
ヤムチャはブルマに対する苦手意識を抱えつつも、ドラゴンボール争奪の修羅場では見捨てない。
ここでは「盗品を追跡するための人手と足」の補完として機能し、後の“ピラフ城潜入”の体勢を整えます。荒野の用心棒から仲間側へと立ち位置が移る過渡期の描き方として自然。
ソバがシュウに変わった理由
この回で注目すべきは、ピラフの部下の忍者の恰好をした部下がソバとして登場していることでしょう。
なぜか、このソバ、後の登場ではシュウという名前に変更されています。
一般的には下記の2つの理由が考えらえているようです。

作者のうっかり
原作初期では犬の部下は「ソバ」ですが、アニメ化の際に鳥山明先生がスタッフから名前確認を求められた時、既に「ソバ」と名付けていたことを失念し「シュウ」と答えた──という編集経緯が、英語版ウィキペディアの人物一覧で「JC巻12のあとがき等」を根拠に整理されています。
さらに日本語版ウィキペディアの「ピラフ一味」項目でも同旨が記載され、脚注では単行本7巻の巻末コーナーで「ショウ」と誤記されていた旨まで触れられており、“命名周りで混乱があった”一次資料相当の手がかりが並んでいます。
ファン百科でも「鳥山が既命名を忘れ、アニメ名に合わせて改称」とする説明が一貫しており、一般的理解として定着しています。
語呂合わせ
鳥山先生は命名の方針として「食べ物で統一したかった」「シュウとマイで“シュウマイ”」と語っている旨が、日本語版ウィキペディアに出典つきで整理されています。
この語呂の強さと分かりやすさがアニメ・グッズ側での定着を後押しし、「シュウ」が運用上の標準になったと考えられます。
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