ドラゴンボール 第49話のあらすじ考察「武天老師の逆襲」

ストーリー
引用元 ドラゴンボール 集英社

其之四十九のサブタイトルは「武天老師の逆襲」です。決勝戦はいよいよ後半戦へと突入します。
ところが、この回でジャッキー・チュンが仕掛けた「逆襲」の技、よいこ眠眠拳は、観客席のブルマのたった一言で破られてしまいます。
それどころか、この回のなかでダウンを奪われて武舞台に転がるのは、逆襲したはずのジャッキーのほうです。サブタイトルが予告した武天老師の逆襲は、いったいどこへ消えてしまったのでしょうか。しかも、ジャッキーからダウンを奪った決め手は、悟空が亡き祖父・孫悟飯から受け継いだ技でした。

其之四十九「武天老師の逆襲」のあらすじ

狂拳で壁に叩き込まれたジャッキーが瓦礫から起き上がると、悟空は今度は猿の真似を始めます。
前話のサブタイトルは「猿マネ」で相手の技を再現していましたが、今度は猿の動きで相手を翻弄する「猿拳」の登場です。悟空は武舞台の上をちょこまかと跳ね回り、シッポでジャッキーの足を払って転ばせ、顔をひっかくなど、先の読めない動きでジャッキーを翻弄します。

引用元 ドラゴンボール 集英社

いいように遊ばれたジャッキーは、すっかり頭に血がのぼります。ムキになったジャッキーが繰り出したのが「よいこ眠眠拳」でした。不気味な手の動きで悟空の視線を引きつけ、鋭い眼力と子守唄で相手を眠らせる、いわば催眠術です。悟空はまんまと術にかかり、武舞台の上で眠り込んでしまいます。

カウントが進むなか、審判役のアナウンサーも、試合が盛り上がらない情けない技だと渋い顔です。このまま10カウントでジャッキーの優勝かと思われたそのとき、ブルマが観客席から「ごはんの時間」だと悟空に呼びかけます。すると悟空は、それまでの眠りが嘘のように飛び起きてしまいました。

引用元 ドラゴンボール 集英社

目を覚ました悟空は、じっちゃん直伝のジャン拳を仕掛けます。ところがジャッキーは、その動きを完全に見切っていました。チョキの目つぶしも、あっさり受け止められてしまいます。ジャン拳の手の内はお見通しだと言わんばかりのジャッキー。そこで悟空は「パー」と叫びながら、実際にはグーを繰り出しました。掛け声を信じて平手打ちに備えたジャッキーは、この騙し討ちをまともに食らってダウンします。

引用元 ドラゴンボール 集英社

師匠の「逆襲」で始まった回は、こうして弟子の騙し討ちがジャッキーを武舞台に沈めるという、サブタイトルとは裏返しの形で山場を迎えます。

予告された「猿」の回収(?)──猿拳とシッポ

前話の其之四十八は「猿マネ孫悟空」というサブタイトルでありながら、悟空は一度も猿の真似をしていませんでした。あくまで人の技の模倣をすることが「猿マネ」だという意味で使われていたのです。
公式サイトの技紹介でも、猿拳の初出はこの其之四十九とされています。サブタイトルの「猿」は、一話遅れでようやく回収されたわけです。

ここで注目したいのは、猿拳の中身です。公式サイトは猿拳を、シッポで相手を転ばせて顔をひっかくなど、トリッキーな動きで翻弄する技として紹介しています。つまり猿拳の決め手は、悟空の体にある本物のシッポなのです。

このシッポは、もともと物語の序盤で失われ、天下一武道会のギラン戦でようやく生え戻ったものでした。決勝戦では場外負けを避けるために振り回して空を飛び、そしてこの回では攻撃の武器になります。生え戻ってから、シッポは試合を追うごとに出番を増やしているのです。

前話の狂拳は、犬の動きを「真似る」技でした。しかし猿拳は少し事情が違います。悟空は猿の真似をしているのではなく、猿の体を持っているからこそ、この技が成立しているとも言えます。真似ではなく地のままの悟空、と言ってもよいかもしれません。

そして、シッポと「猿」がこれだけ前面に出てきた直後の回で、悟空は満月を見て大猿に変身することになります。猿マネ(其之四十八)、猿拳(其之四十九)、大猿(其之五十)と、「猿」の度合いが回を追って一段ずつ濃くなっていく。偶然かもしれませんが、次回への伏線として読むと、この流れはなかなか出来すぎています。

よいこ眠眠拳は「上には上がいる」を教えられない技だった

サブタイトルの「逆襲」にあたるのは、猿拳でさんざん遊ばれたジャッキーが繰り出したよいこ眠眠拳でしょう。公式サイトも、猿拳の先の読めないヤンチャな動きがジャッキーの怒りを買ったと書いています。この逆襲は、冷静な作戦というより、腹を立てた末の一手だったわけです。

ここで思い出したいのが、ジャッキーが大会に出場した理由です。其之四十六でナムに明かしたとおり、亀仙人は弟子たちに世の中にはまだまだ強い者がいると知らしめるために、変装して出場しています。

では、眠眠拳で勝っていたらどうなっていたでしょうか。悟空は眠ったまま10カウントを聞き、目を覚ましたときには試合が終わっています。殴り合って力の差を思い知らされたわけではないので、悟空に残るのは「寝ているうちに負けた」という実感だけです。これでは「上には上がいる」という教えは、ほとんど伝わりません。

つまり眠眠拳は、勝つためには有効でも、ジャッキーが出場した目的とはかみ合わない技なのです。前話の酔拳は、悟空に真似させないための、理にかなった選択でした。ところが眠眠拳は、もはや戦うこと自体を放棄した勝ち方です。アナウンサーのぼやきは、その不自然さを代弁しているとも読めます。

前話では、三重残像拳で頭をはたかれたジャッキーの口から、思わず師匠としての本音が漏れかけました。この回の眠眠拳も、それと同じ流れの上にあると考えられます。弟子にいいように遊ばれ、ジャッキー・チュンとしての冷静さが崩れて、負けず嫌いな老武道家の素顔が出てしまった。サブタイトルがジャッキー・チュンではなく「武天老師」の名を掲げているのは、この逆襲が変装した謎の老人のものではなく、意地になった師匠そのもののものだったからではないでしょうか。

催眠術を破ったのは「ごはん」──武術家ではなくブルマだった理由

眠眠拳の攻略は、この回でいちばん笑える場面であると同時に、いちばん示唆に富んだ場面でもあります。
まず、催眠を解いたのは技でも気合いでもなく、「ごはん」という一言でした。武天老師が繰り出した催眠術が、悟空の食欲という本能の前ではまったく歯が立たなかったのです。
前話の狂拳で、悟空は野生児としての経験を武器にジャッキーの酔拳に対抗しました。この回では、その野生の本能が、悟空が意識していないところで勝手に悟空を救っています。悟空の強さは、鍛えた技だけでなく、こうした生き物としての地力に支えられていると見ることができます。

次に、その一言を発したのがブルマだったことです。観客席には、前話で酔拳を見抜いたヤムチャをはじめ、武道家の仲間もいました。しかし眠眠拳を破ったのは、武術の素人であるブルマでした。

ブルマは其之一で悟空と出会って以来、ドラゴンボール探しの旅を共にしてきた人物です。悟空が何に反応し、何をいちばん大切にしているかを、旅のなかで誰よりも近くで見てきたはずです。武術の理屈では解けない術を、生活の知恵が解いてしまった。武道会という武術の舞台で、最初の旅の仲間が決定的な役割を果たすという構図には、物語の積み重ねが感じられます。

見切られたジャン拳──「じっちゃんの技」を知っていた男

目を覚ました悟空が選んだのは、ジャン拳でした。公式サイトによれば、ジャン拳は悟空が育ての親である孫悟飯から教わった技で、初出は其之三の山賊グマ戦です。かめはめ波も残像拳もジャッキーの技を盗んだものでしたが、ジャン拳だけは、悟空が武天老師の弟子になる前から持っていた技です。
ところがジャッキーは、そのジャン拳を見事に見切ってしまいます。悟空にとって、祖父だけの技のはずのものが、なぜ初対面(と悟空は思っている)の老人に通じなかったのでしょうか。

読者にとって、答えの手がかりははっきりしています。亀仙人は、悟空の祖父・孫悟飯の師匠でもあります。悟飯の技を、師匠である亀仙人が知っていても不思議はありません。
ただし、亀仙人がいつどこでジャン拳を見たのか、あるいはジャン拳そのものが亀仙流と関係があるのかは、作中では語られていません。八か月の修業中に悟空が使うのを見ていた可能性もあり、ここは推測にとどめておきます。

興味深いのは、孫悟飯という見えない第三者の扱われ方です。前話では、ジャッキーの酔拳を見た悟空が、じいちゃんも得意だったと口にしました。この回では逆に、悟空がじいちゃんの技を出し、それをジャッキーが見切ります。そして次の其之五十で、ジャッキーは萬國驚天掌を出す際、この技を自分に出させたのは悟空の祖父ただ一人だったと明かすことになります。

酔拳、ジャン拳、萬國驚天掌。三話続けて、二人の攻防の陰に孫悟飯がちらつきます。決勝戦は、師匠と弟子の戦いであると同時に、師匠とかつての弟子の孫との戦いでもあります。正体を隠したジャッキーは、悟飯ゆかりの技を介して悟空と向き合っているのです。この回は、その構図がもっとも静かに、しかしはっきりと見える回だと言えます。

「パー」と言ってグー──受け継いだ技を書き換えた一撃

見切られたジャン拳に対して、悟空が出した答えが「パー」と叫んでグーを出す騙し討ちでした。公式サイトも、この一撃をナイスな騙し討ちとして紹介しています。

この技の面白さは、ジャン拳の構造そのものを逆手に取っている点にあります。ジャン拳は、出す手の名前を叫んでから攻撃する技です。手の内を知っている相手にとって、掛け声はそのまま次の攻撃の予告になります。ジャッキーがジャン拳を見切れたのは、技の型を知っていたからであり、言い換えれば掛け声を信用していたからです。悟空はその信用を、たった一言で裏切りました。

皮肉なのは、ジャン拳をよく知っていたジャッキーだからこそ、この騙し討ちに引っかかったという点です。ジャン拳を知らない相手なら、そもそも掛け声に反応して身構えることもなかったはずです。知識があったぶん、ジャッキーは掛け声に体が反応してしまった。熟練者ほど型にはまった予測をしてしまうという、武術の盲点を突いた一撃だったと言えます。

ここで、前話からの悟空の変化を整理してみます。

  • 其之四十八の三重残像拳:ジャッキーの技を真似て、一段上乗せする
  • 其之四十八の狂拳:真似をやめて、自分の中にあるものから新しい技を生む
  • 其之四十九の「パー」でグー:祖父から受け継いだ技の型を、その場で書き換える

前話は「模倣から創作へ」という変化を描いた回でした。この回の悟空は、さらに受け継いだものを作り変えるという段階を見せています。ジャン拳は悟空にとって、師匠の亀仙人よりも前に、祖父から最初に教わった技です。その原点の技を、悟空は型どおりに使うのではなく、相手に合わせて改変してみせました。

天下一武道会のルールでは目つぶしは禁じ手ですが、この試合でチョキの目つぶしが受け止められたため、悟空は特に罰則を受けていません。ジャッキーがチョキを受け止めたことは、結果的に悟空を反則負けから救っていたとも言えそうです。ジャン拳という技には、ルールのある武道会の舞台にそぐわない部分があり、悟空はそれをグーという正攻法の一撃に変えて決めた。そう見ると、この騙し討ちは、悟空が野生の技を武道会の戦い方に適応させていく過程の一コマとして読むこともできます。

おわりに

其之四十九は、サブタイトルが掲げた「武天老師の逆襲」が、回のなかで二度ひっくり返される回でした。猿拳に腹を立てた師匠の逆襲は、ブルマの「ごはん」の一言で破られ、さらに弟子の騙し討ちによってダウンという形で跳ね返されます。

その過程で見えてきたのは、悟空の強さを支える三つの層です。シッポという生まれ持った体、食欲という生き物としての本能、そして祖父から受け継いだ技を作り変える機転。一方のジャッキーは、勝つことと教えることのあいだで揺れ、意地になった師匠の素顔をのぞかせました。

とはいえ、ここで終わる武天老師ではありません。ダウンから起き上がったジャッキーは、次回、生涯でただ一人、孫悟飯にしか出したことのない大技を悟空に向けることになります。そして悟空のシッポと「猿」の伏線は、夜空の満月によって思いもよらない形で回収されていきます。次回、其之五十「悟空最大のピンチ!!」で、決勝戦はついに武道会そのものを揺るがす事態へと発展します。

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