ドラゴンボールで読者がもっとも絶望したシーンは?

設定の考察
引用元 ドラゴンボール 集英社

ドラゴンボールは、主人公がとにかくよく負ける漫画です。
天下一武道会では第21回でジャッキー・チュンに、第22回で天津飯に敗れています。殺し屋の桃白白には一度命を奪われかけ、サイヤ人編では兄ラディッツを道連れに死亡。その後のベジータ戦でも、タイマンでは完敗。人造人間編でも、自爆するセルとともにもう一度命を落としています。

主人公がここまで繰り返し追い詰められる少年漫画は、そう多くありません。そしてそのたびに、読者は「今度こそどうやって勝つんだ?」と頭を抱えてきました。

今回はその「頭を抱えた瞬間」、つまりドラゴンボールで読者がもっとも絶望したシーンを20個選び、ランキングにしてみたいと思います。

ただ、「絶望した」という感覚は人によってまったく違います。連載をリアルタイムで追っていた人と、完結後に単行本で一気に読んだ人とでも、受け止め方は大きく変わるでしょう。 そこで今回は、なるべく感覚ではなく、共通の物差しで測ることにしました。

まず考察の前提です。これが基準となります。

  • 原作漫画の描写のみを判断基準とする(アニメオリジナル、映画、ドラゴンボール超は対象外)
  • その時点までに読者が知っている情報だけで評価する(後の展開で救われることは考慮しない)
  • 「強い敵が出てきた」ではなく、「読者が勝ち筋を見失った瞬間」を絶望と定義する

特に重要なのが2つ目です。 たとえば神龍が殺された場面で、読者はまだ神様の存在を知りません。神龍がのちに復活することを知っている今の目線で読み返すと、あの場面の本当の重さを取りこぼしてしまいます。 ですから今回は、当時の読者の目線に立ち返って採点していきます。

絶望度をはかる4つの指標

絶望を分解すると、次の4つの要素になると私は考えています。それぞれ5点満点、合計20点で採点しました。

① 戦力差(勝ち目のなさ)
敵と味方の力の開きがどれだけ大きいか。数値やセリフで「差」がはっきり示されるほど高得点です。

② 喪失(取り返しのつかなさ)
仲間の死やドラゴンボールの消滅など、何かが失われたか。特に「生き返らせる手段がない」と読者が思わされた場合は満点です。

③ 落差(希望からの転落)
直前に希望を見せられていたかどうか。「これで勝てる」と思わせてから突き落とす展開ほど、ダメージは大きくなります。

④ 打開策の不在
次の一手が見えるかどうか。主人公の切り札が残っている、援軍が向かっているといった状況なら点数は下がります。

合計点が同じ場合は、④打開策の不在が高い方を上位とし、それも同じなら③落差が高い方を上位としました。 「次の手が見えない」ことこそが絶望の本質だと考えるからです。

この基準で20のシーンを採点した結果が、以下の一覧です。

順位シーン編①戦力差②喪失③落差④打開策の不在合計
1ピッコロ大魔王が若返り、神龍が殺されるピッコロ大魔王編554519
2自爆したセルが復活し、トランクスを撃ち抜くセル編555318
3元気玉を受けたフリーザが生きていたフリーザ編525517
4ベジータの自爆でも魔人ブウが再生する魔人ブウ編445417
5亀仙人の魔封波が失敗に終わるピッコロ大魔王編454417
620倍界王拳かめはめ波が片手で防がれるフリーザ編515516
7究極化した悟飯が魔人ブウに吸収される魔人ブウ編525416
8ピッコロの死で神様が死に、ドラゴンボールが消えるサイヤ人編453416
9魔人ブウが地球を消滅させる魔人ブウ編553316
10フリーザ「変身をあと2回も残している」フリーザ編514515
11悟空はすでに10倍界王拳を使っていたフリーザ編515415
12超サイヤ人ベジータが人造人間18号に完敗する人造人間編524415
13クリリンが殺されるピッコロ大魔王編355215
14悟空が若返る前のピッコロ大魔王に敗れるピッコロ大魔王編424414
15悟空とピッコロが二人がかりでもラディッツに歯が立たないサイヤ人編433313
16フリーザ「わたしの戦闘力は530000です」フリーザ編413412
17悟空が桃白白のどどん波に倒れるレッドリボン軍編324312
18悟空がタンバリンに打ちのめされるピッコロ大魔王編323311
19悟空がマジュニアに胸を撃ち抜かれる第23回天下一武道会313310
20悟空の戦法がすべて天津飯に見切られる第22回天下一武道会21328

一見して分かるのは、上位にフリーザ編と魔人ブウ編が並ぶ一方で、1位はピッコロ大魔王編だということです。 なぜそうなるのか。20位から順番に見ていきましょう。

第20位 悟空の戦法がすべて天津飯に見切られる

①2 ②1 ③3 ④2 合計8点

第22回天下一武道会の決勝は、準決勝でクリリンを下した悟空と、鶴仙流の天津飯の対戦でした。試合開始直後から、悟空の繰り出す攻撃はことごとく天津飯に読まれ、逆に一方的に打ち込まれ、気を失ったような状態で中吊りにされるという衝撃的な展開となりました。

引用元 ドラゴンボール 集英社

この場面の怖さは、単純な強さの差ではありません。悟空の戦い方そのものが、すでに見透かされている。その不気味さです。それまで持ち前の野生の勘で勝ち上がってきた悟空が、初めて「研究される側」に回った瞬間ともいえます。

しかも天津飯は、試合で勝てばいいと考えていたわけではありません。この時点の天津飯は、桃白白の後を継ぐ殺し屋を目指す鶴仙流の門下生です。第1試合ではヤムチャの足をへし折っており、悟空に対しても殺すつもりで臨んでいました。実際、このあとの排球拳では、悟空にとどめを刺そうとしています。 天下一武道会という試合の場でありながら、負ければ命を落としかねない戦いだったのです。

それでも20位としたのは、①戦力差と④打開策の不在が低いからです。 序盤こそ一方的に打ち込まれたものの、次の回では悟空は戦闘パワーを開放し、互角以上の攻防へと持ち込んでいきます。
決勝戦開始直後、悟空が圧倒的劣勢に追い込まれるインパクトはありましたが、読者視点ではさすがにこのまま悟空が敗れてしまうとは思っていなかったと思います。その点で、絶望よりも「緊張」に近い場面だったといえます。

第19位 悟空がマジュニアに胸を撃ち抜かれる

①3 ②1 ③3 ④3 合計10点

第23回天下一武道会の決勝。ピッコロ大魔王の生まれ変わりであるマジュニアは、口から放った怪光線で悟空の胸を貫きます。この試合で悟空は胸に穴を開けられたうえ、両足を折られ、腕も使えない状態にまで追い込まれました。
描写の過酷さだけなら、悟空の戦いの中でも群を抜いています。では、なぜ19位なのか。

引用元 ドラゴンボール 集英社

それは、この時点の悟空が「ピッコロ大魔王を倒した男」であり、さらに神様のもとで3年間の修業を積んできたことを、読者が知っているからです。どれだけ満身創痍になっても、どこかに「悟空なら何とかする」という信頼が残っていました。 そして実際、悟空は手足をほぼ封じられた状態から逆転し、天下一武道会初優勝を果たします。痛々しさは満点でも、勝ち筋までは消えていなかったのです。

第18位 悟空がタンバリンに打ちのめされる

①3 ②2 ③3 ④3 合計11点

クリリン殺害の犯人を追った悟空は、ピッコロ大魔王の手下・タンバリンと対峙します。しかし結果は惨敗でした。筋斗雲を破壊され、森へ叩き落とされ、死んだものとして置き去りにされてしまいます。

引用元 ドラゴンボール 集英社

ここで読者が感じたのは、「大魔王本人どころか、その手下にすら勝てないのか」という衝撃です。親友の仇討ちに向かった主人公が返り討ちにされる。展開としては相当に重いものです。

それでも点数が伸びなかったのは、悟空が天下一武道会の決勝を戦い終えた直後で、疲れ果てた状態だったことを読者が知っているからです。「万全なら勝てたはず」という言い訳の余地が残っていました。 実際、体力を取り戻した悟空は、再戦でタンバリンをかめはめ波で跡形もなく吹き飛ばしています。

第17位 悟空が桃白白のどどん波に倒れる

①3 ②2 ③4 ④3 合計12点

レッドリボン軍に雇われた殺し屋・桃白白は、聖地カリンで悟空にどどん波を撃ち込みます。悟空は倒れ、桃白白はその場を去りました。悟空が助かったのは、服の中に入れていた四星球がどどん波を受け止めたからです。

引用元 ドラゴンボール 集英社

この場面が重いのは、悟空がそれまで「負けても殺されない」場所で戦ってきたからです。 第21回天下一武道会でジャッキー・チュンに敗れてはいますが、あれはあくまで試合でした。桃白白は違います。依頼を受けて人を殺す本物の殺し屋に、命のやり取りで初めて敗れたのです。それまで陽気な冒険漫画だった作品の空気が、ここで一段冷たくなりました。

それでも17位にとどめたのは、悟空の無事がすぐに明かされ、カリン塔での修業という明確な次の目標が示されたからです。絶望は長く続きませんでした。

第16位 フリーザ「わたしの戦闘力は530000です」

①4 ②1 ③3 ④4 合計12点

ナメック星でネイルと対峙したフリーザが、自らの戦闘力を明かしたセリフです。しかもフリーザは、もちろんフルパワーで戦うつもりはないと付け加えます。作中でも屈指の有名な場面ですね。
数字のインパクトは絶大でした。ナメック星編で読者がそれまで見てきたのは、数万から十数万という数字の攻防です。そこへ桁がひとつ違う数字を突きつけられたのですから、驚かないはずがありません。

引用元 ドラゴンボール 集英社

しかし、冷静に考えると話は変わってきます。 読者はこの時点で、悟空がナメック星へ向かう宇宙船の中で100倍重力の修業を終え、10倍くらいの界王拳になら耐えられると口にしていたことを知っています。悟空の素の力に10倍の界王拳を掛け合わせれば、53万にも手が届くかもしれない。数字だけを見れば、10倍界王拳の悟空ならギリギリ戦えなくはないという計算が成り立つのです。

また、フリーザが変身できることも、読者はすでに知らされていました。ただし、それが何回なのかはまだ分かりません。変身後にどれほど強くなるのかも未知数のままです。 つまりこの時点の53万は、底の見えない恐怖というより、悟空なら届きうる「計算できる数字」として受け止めることもできたのです。

①戦力差を4点にとどめたのはこのためです。「フルパワーではない」という注釈がある以上、衝撃は満点に近いものがありました。それでも、勝ち筋が完全に消えたわけではありません。 ②喪失は1点です。この場面ではまだ誰も命を落としていません。一方で④打開策の不在は4点としました。頼みの悟空はメディカルマシンで回復中で、戦場にはいなかったからです。

本当の絶望は、この「計算できる数字」が、第10位の「変身をあと2回も残している」によって計算不能になったときに訪れます。53万はその前振りだったといえるでしょう。 同じ12点の第17位より上にしたのは、悟空が戦線にいない分、④打開策の不在が上回るためです。

第15位 悟空とピッコロが二人がかりでもラディッツに歯が立たない

①4 ②3 ③3 ④3 合計13点

悟空の兄・ラディッツの登場は、作品のものさしを一変させました。スカウターが示したラディッツの戦闘力は1500。対する悟空とピッコロは、どちらも数百程度にすぎません。地球最強の二人が手を組んでも、まるで歯が立たないのです。

引用元 ドラゴンボール 集英社

この場面の絶望は、それまで積み上げてきた強さの序列が、一人の宇宙人によって無意味になったことにあります。ピッコロ大魔王編や第23回天下一武道会で描かれた死闘が、宇宙の基準ではささいなものだった。読者は作品の前提そのものを揺さぶられました。

しかも決着は、悟空がラディッツを羽交い締めにし、ピッコロの魔貫光殺砲で自分ごと貫かせるという、主人公の死によるものでした。さらにラディッツは死に際に、より強いサイヤ人が1年後にやってくると言い残します。

それでも中位にとどまるのは、悟空の死と引き換えとはいえ物語上は「勝利」で幕を閉じたこと、そしてドラゴンボールで悟空を生き返らせる道が示されていたからです。

第14位 悟空が若返る前のピッコロ大魔王に敗れる

①4 ②2 ③4 ④4 合計14点

タンバリンを倒した悟空は、いよいよピッコロ大魔王本人と対決します。手下を倒した勢いで挑んだこの戦いで、悟空は完膚なきまでに叩きのめされ(心臓が止まっているという言及までされる)、ヤジロベーに担がれてカリン塔へ向かうことになります。

引用元 ドラゴンボール 集英社

注目してほしいのは、このときのピッコロ大魔王が若返る前だったという点です。大魔王は全盛期の若さを取り戻すためにドラゴンボールを集めていました。つまり読者は、悟空が勝てなかった相手が「全盛期ではない」大魔王だと知っているのです。

では、若返ったらどうなるのか? この問いが、のちの第1位の場面へとつながっていきます。単体では14位ですが、ランキング全体の「前振り」として非常に重要な場面です。

第13位 クリリンが殺される

①3 ②5 ③5 ④2 合計15点

第22回天下一武道会が終わり、仲間たちで食事をしている最中のことです。悟空の忘れ物を取りに会場へ戻ったクリリンが、何者かに殺されてしまいます。

引用元 ドラゴンボール 集英社

それまでのドラゴンボールは、ギャグと冒険の漫画でした。レッドリボン軍編で敵の死は描かれても、主要な仲間が殺されることはありませんでした。その空気を一夜でひっくり返したのがこの場面です。大会を終えた和やかな食事の場から一転して訃報が届くという構成もあって、③落差は満点としました。

それでも13位にとどまるのは、④打開策の不在が2点と低いからです。読者はレッドリボン軍編で、ドラゴンボールによってウパの父・ボラが生き返る場面を見ています。クリリンもドラゴンボールで生き返らせればいい。その道が残っていたのです。 しかし、その「最後の望み」こそが、のちに大魔王によって断ち切られることになります。

第12位 超サイヤ人ベジータが人造人間18号に完敗する

①5 ②2 ③4 ④4 合計15点

人造人間編で、超サイヤ人に目覚めたベジータは19号を圧倒し、自信満々で残りの人造人間を迎え撃ちます。ところが、目覚めた18号を相手に、ベジータは腕を折られて完敗してしまいます。駆けつけたトランクス、ピッコロ、天津飯も次々に倒されていきました。

この場面は、フリーザ編で到達した「超サイヤ人=最強」という等式が崩れた瞬間です。しかも、その超サイヤ人の元祖である悟空は、心臓病で倒れて戦線を離脱していました。

③落差が4点なのは、直前にベジータが19号を一方的に破壊し、読者に「これなら勝てる」と思わせていたからです。ただ、17号・18号の強さはトランクスによって事前に予告されていたため、満点にはしませんでした。

第11位 悟空はすでに10倍界王拳を使っていた

①5 ②1 ③5 ④4 合計15点

最終形態のフリーザが「マックスパワーの半分の力」を出し始めると、悟空は一方的に追い込まれていきます。界王星で戦況を見守る天津飯は、心配はいらない、悟空には界王拳がある、今の悟空なら10倍くらいには耐えられるはずだ、と仲間を落ち着かせます。

ところが界王様は、悟空がいま使っているのがその10倍界王拳なのだと告げます。しかもフリーザは、実力の半分ほどしか使っていないらしい、と。

引用元 ドラゴンボール 集英社

悟空はナメック星へ向かう宇宙船の中で、100倍の重力修業を終え、10倍くらいの界王拳になら耐えられると自信をのぞかせていました。読者もその切り札がフリーザ戦で使われるのだろうと思っていたはずです。その切り札が、すでに切られたうえで通用していなかった。天津飯の言葉で安心させてから突き落とす構成のため、③落差は満点です。

それでも11位にとどまるのは、この時点では悟空にまだ20倍界王拳という未知の領域と、元気玉という奥の手が残っていたからです。

第10位 フリーザ「変身をあと2回も残している」

①5 ②1 ③4 ④5 合計15点

第二形態への変身を終えたフリーザは、自らの戦闘力が100万以上であることを明かし、さらにこの変身をあと2回残していると告げます。

引用元 ドラゴンボール 集英社

戦闘力53万の時点で、ナメック星にいる誰も太刀打ちできませんでした。その53万が倍になり、しかもまだ先がある。ゴールが見えたと思った瞬間に、ゴールが2つ遠ざかった。この感覚こそが、この場面の絶望の正体です。

③落差が4点なのは、直前までベジータが不老不死さえ手に入ればフリーザに勝てると息巻き、読者もベジータの急成長に一定の期待を寄せていたからです。 ④打開策の不在は満点です。悟空はメディカルマシンの中、ピッコロもまだ到着していない。戦場に残っているのは、第一形態にすら手も足も出ないベジータ、クリリン、悟飯だけでした。同じ15点の第11位より上にしたのは、この④の差によるものです。

第9位 魔人ブウが地球を消滅させる

①5 ②5 ③3 ④3 合計16点

純粋な姿に戻った魔人ブウは、地球そのものを破壊してしまいます。界王神の瞬間移動によって脱出できたのは、悟空やベジータらごくわずか。チチもブルマも、地球に残っていた人々はすべて消えました。

「主人公たちが守るべき星が丸ごとなくなる」という意味では、作中最大の喪失です。②喪失が満点なのは言うまでもありません。

それでも9位にとどまるのは、この頃には読者がナメック星のドラゴンボールの存在を知っており、ポルンガなら大勢をまとめて生き返らせられることも分かっていたからです。加えて、悟空とベジータという二枚看板が生き残っていました。 ③落差が3点なのも、ブウが純粋な姿に戻った時点で読者がある程度「最悪」を覚悟していたためです。喪失の大きさに比べ、意外性はそれほど高くありませんでした。

第8位 ピッコロの死で神様が死に、ドラゴンボールが消える

①4 ②5 ③3 ④4 合計16点

サイヤ人編で、ナッパは地球の戦士たちを次々に葬っていきます。ヤムチャ、餃子、天津飯が倒れたあと、ピッコロは悟飯をかばってナッパの攻撃を受け、命を落とします。神様とピッコロはもともと一人の存在だったため、神様も同時に死亡。神様が作ったドラゴンボールは、ただの石になってしまいました。

引用元 ドラゴンボール 集英社

この場面の②喪失が満点なのは、仲間を生き返らせる手段そのものが消えたからです。この時点で読者は、ナメック星のドラゴンボールの存在をまだ知りません。死んだ仲間は、もう二度と戻ってこない。そう思わされた瞬間でした。

それでも8位なのは、悟空の到着が目前に迫っていたからです。界王様のもとで修業を積んだ悟空がもうすぐ来る。読者には、その一点の希望が残されていました。 ①戦力差を4点にしたのも、圧倒的なナッパの後ろに、まだ戦ってすらいないベジータが控えているという構図があったからです。

第7位 究極化した悟飯が魔人ブウに吸収される

①5 ②2 ③5 ④4 合計16点

老界王神によって潜在能力を限界まで引き出された悟飯は、魔人ブウを圧倒します。ようやく悟飯が主役の座に返り咲き、ブウ編の決着がつく。多くの読者がそう思ったはずです。

ところが形勢を立て直したブウは、ゴテンクスとピッコロに続いて、ついに悟飯まで吸収してしまいます。セル編で父を超えた悟飯が、敵の「パーツ」になってしまったのです。

引用元 ドラゴンボール 集英社

③落差は満点です。これほど分かりやすく「勝利目前」を描いてからひっくり返した場面は、作中でもそう多くありません。 それでも7位なのは、老界王神から命を譲り受けた悟空が地上に戻っており、ポタラという合体の手段も用意されていたからです。読者には「悟空がいる」という支えが残っていました。

第6位 20倍界王拳かめはめ波が片手で防がれる

①5 ②1 ③5 ④5 合計16点

10倍界王拳が通用しないと悟ったフリーザ戦の悟空は、体が壊れる危険を承知で20倍界王拳に賭けます。フリーザが半分の力しか出していないという言葉がハッタリであってくれと祈りながら、全身全霊のかめはめ波を放ちました。

しかし、フリーザはそれを片手で防ぎます。無傷ではなかったものの、決定打には程遠い。悟空の口から漏れたのは「くそったれ」という一言でした。フリーザは本当に、半分の力しか使っていなかったのです。

この場面は、第11位の「10倍界王拳」の延長線上にあります。違いは、悟空自身が限界を超えて切った最後の切り札だったことです。しかも20倍界王拳の反動で、悟空の体はボロボロになってしまいました。切り札を失っただけでなく、残りの体力まで削られたのです。④打開策の不在は満点としました。

ナッパもベジータもギニューも、悟空は界王拳の倍率を上げることで上回ってきました。その「必勝パターン」が初めて通用しなかった。ナメック星編の悟空が、本当の意味で追い詰められた場面です。

第5位 亀仙人の魔封波が失敗に終わる

①4 ②5 ③4 ④4 合計17点

悟空がピッコロ大魔王に敗れたあと、亀仙人は最後の手段に打って出ます。かつて師匠の武泰斗が命と引き換えに大魔王を電子ジャーに封じた技、魔封波です。

魔封波は、作中で唯一「ピッコロ大魔王に勝ったことのある技」でした。読者にとっては、過去の実績に裏打ちされた確かな希望です。だからこそ、それが失敗に終わり、亀仙人が命を落としたときの衝撃は計り知れません。

引用元 ドラゴンボール 集英社

②喪失は満点です。主人公の師匠が、しかも作品の顔ともいえる亀仙人が死ぬ。クリリンに続く主要人物の死によって、ピッコロ大魔王編は少年漫画としては異例の暗さを帯びていきます。

それでも5位にとどまるのは、読者には悟空が生きていることが分かっていたからです。ヤジロベーに運ばれた悟空がカリン塔へ向かったことで、「悟空がまだいる」という希望はかろうじてつながっていました。

第4位 ベジータの自爆でも魔人ブウが再生する

①4 ②4 ③5 ④4 合計17点

魔人ブウ編で、ベジータは悟空を気絶させ、ひとりでブウに挑みます。トランクスを抱きしめて母さんを大事にしろと言い残し、子どもたちをピッコロに預けて戦場から遠ざけると、自らの命と引き換えに全エネルギーを解放しました。プライドの塊だったベジータが、家族のために命を投げ出した名場面です。

引用元 ドラゴンボール 集英社

ところが、粉々に飛び散ったはずのブウの肉片は、やがて集まり、元通りに再生してしまいます。

③落差は満点です。ベジータの自爆は、物語上は「これで決着がついてもおかしくない」重みを持った自己犠牲でした。それすら無駄に終わったことで、読者はブウは殺しても死なないという、まったく新しい種類の恐怖を突きつけられます。

それでも4位なのは、悟空がまだ生きており、悟天とトランクスのフュージョンという新しい可能性も示されていたからです。打開策がゼロではなかった分、上位3つには一歩及びませんでした。

第3位 元気玉を受けたフリーザが生きていた

①5 ②2 ③5 ④5 合計17点

20倍界王拳でも勝てなかった悟空は、最後の手段として元気玉に賭けます。ナメック星をはじめ周囲の星々から集めた巨大なエネルギーの塊は、フリーザに直撃し、そのまま海の底へと押し込みました。

ようやく終わった。悟空も、悟飯も、クリリンも、そして読者も、そう思いました。

ところがフリーザは生きていました。しかも現れるなり、ピッコロの胸を撃ち抜いてしまいます。

引用元 ドラゴンボール 集英社

この場面が第3位なのは、③落差と④打開策の不在がともに満点だからです。元気玉は、ベジータ戦でも戦況を大きく動かした悟空最大の奥の手でした。20倍界王拳で体はボロボロ、残った力をすべて注ぎ込んだ一撃が通用しなかった以上、悟空の手札は本当にゼロになったのです。

②喪失が2点にとどまるのは、この直後に起こるクリリンの死が、そのまま悟空の超サイヤ人覚醒につながるからです。絶望の底がそのまま逆転の起点になる。この場面の絶望は、作中でもっとも短命で、しかしもっとも深いものだったといえるかもしれません。 同点の第4位・第5位より上にしたのは、④の差です。ベジータの自爆後も、亀仙人の死後も、読者には「悟空がいる」という支えがありました。元気玉の失敗は、その悟空自身が打つ手を失った場面なのです。

第2位 自爆したセルが復活し、トランクスを撃ち抜く

①5 ②5 ③5 ④3 合計18点

悟飯に追い詰められたセルは、地球もろとも自爆しようとします。悟空は瞬間移動でセルを界王星へ運び、界王様たちとともにその爆発に巻き込まれて命を落としました。

悟空の死と引き換えに、地球は救われた。そのはずでした。

ところがセルは、体内に残った核から再生します。しかもサイヤ人の細胞の特性によって、死の淵からよみがえったことでさらに強くなり、悟空の瞬間移動まで身につけていました。地上に戻ってきたセルは、一瞬にしてトランクスの胸を撃ち抜きます。

引用元 ドラゴンボール 集英社

①②③の3項目すべてが満点なのは、今回の20シーンの中でこの場面だけです。 悟空の自己犠牲が、まったくの無駄だった。セル編を通して絶望的な未来と戦い続けてきたトランクスが、あっけなく殺された。そして、敵は以前よりも強くなって帰ってきた。希望を示してから、それを一つずつ丁寧に裏返していく構成は、まさに絶望の教科書です。

では、なぜ1位ではないのか。それは、悟飯が健在だったからです。セルを圧倒していた悟飯の強さを、読者は直前まで目の当たりにしていました。悟飯なら何とかしてくれるかもしれない。④打開策の不在が3点にとどまったのは、この一点のためです。

第1位 ピッコロ大魔王が若返り、神龍が殺される

①5 ②5 ③4 ④5 合計19点

第1位は、ピッコロ大魔王編のこの場面です。第14位で触れたとおり、悟空は若返る前のピッコロ大魔王に敗れています。そして第5位のとおり、亀仙人は魔封波に失敗して命を落としました。餃子も大魔王に殺され、クリリンはすでにこの世にいません。 そのうえで大魔王はドラゴンボールを7つ集め、若さを取り戻す願いを叶えます。そして願いを叶え終えた神龍を、誰にも使わせないために殺してしまうのです。

引用元 ドラゴンボール 集英社

この場面の恐ろしさは、4つの指標すべてで最高水準に達している点にあります。

①戦力差(5点):悟空が勝てなかったのは「全盛期ではない」大魔王でした。それが全盛期の力を取り戻したのです。もはや差を測ることすらできません。

②喪失(5点):クリリン、亀仙人、餃子。この三人を生き返らせる唯一の手段だった神龍が殺されました。この時点で読者は、神様の存在も、ナメック星のドラゴンボールも知りません。つまり、三人はもう二度と戻ってこないのです。

③落差(4点):第13位で書いたとおり、クリリンの死の直後から、読者には「ドラゴンボールで生き返らせればいい」という最後の望みがありました。その望みの源泉そのものが、敵の手で破壊されたのです。満点にしなかったのは、大魔王がドラゴンボールを集めていることが事前に描かれていたためです。

④打開策の不在(5点):悟空は敗れてカリン塔へ運ばれたばかり。カリン塔で何が得られるのかは、まだ誰にも分かりません。天津飯は生き残っていますが、大魔王を倒せる見込みは示されていませんでした。

第8位のサイヤ人編でもドラゴンボールは消えています。しかしあのとき、読者には「悟空がもうすぐ来る」という明確な希望がありました。 一方、この場面の悟空は、すでに一度負けているのです。来るべき救世主が、すでに敗れている。そのうえ敵は強くなり、死者を取り戻す道は断たれた。希望の置き場所が、物語のどこにもない。これがピッコロ大魔王編を1位に推す理由です。

ドラゴンボールという作品の根幹は、その名のとおりドラゴンボールにあります。どんな死も、どんな破壊も、最後は神龍が帳消しにしてくれる。その安心感こそが、この作品の大胆な展開を支えてきました。 神龍の死は、その「作品のルール」そのものを敵が破壊した瞬間です。読者が絶望したのは、悟空が負けたからではありません。ドラゴンボールの世界から、やり直しという概念が消えたからなのです。

総括

20のシーンを採点してみて、ひとつはっきりしたことがあります。 ドラゴンボールの絶望は、「悟空が負けること」そのものでは生まれないということです。

下位に並んだのは、天津飯、マジュニア、タンバリン、桃白白と、いずれも悟空個人が敗れた場面でした。描写としてはどれも痛々しいものです。しかしそこには必ず、「試合だから」「疲れていたから」「悟空はまだ生きているから」という逃げ道がありました。

一方、上位に並んだのは次のような場面です。

  • 切り札が無効化される場面(元気玉、20倍界王拳、ベジータの自爆)
  • やり直しの手段が失われる場面(神龍の死、神様の死)
  • 自己犠牲が無駄になる場面(悟空の死を無にしたセルの復活)

つまり読者が本当に絶望するのは、主人公が倒れたときではなく、主人公が倒れたあとに立ち上がるための道筋が見えなくなったときなのです。

そして、その道筋をもっとも徹底的に断ち切ったのが、第1位のピッコロ大魔王編でした。フリーザやセル、魔人ブウといった後の強敵たちは、確かに戦闘力の上では大魔王をはるかに上回ります。しかし、ナメック星のドラゴンボールや界王様の存在が明らかになったあとの世界では、読者はどこかで「最後は生き返らせられる」と思えるようになっていました。 絶望の深さは、戦闘力の大きさとは比例しない。ドラゴンボールという作品の面白いところです。

なお、今回の採点は「その時点の読者が知っている情報」を前提にしています。結末を知っている今だからこそ、一度その知識を脇に置いて、連載当時の順番で読み返してみてはいかがでしょうか。神龍が殺されたあのページの重さが、まったく違って見えるはずです。

皆さんがもっとも絶望したシーンはどこでしたか? 今回の20位に入らなかった場面も含めて、ぜひコメントで教えてください。

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