今回のテーマは、ドラゴンボールの中でも特に完成された敵役、セルについてです。孫悟空、ベジータ、ピッコロ、フリーザ、コルド大王……あらゆる達人の細胞を組み込んで造られた、ドクター・ゲロの最高傑作。
セルは作中でクリリンに対して、こんなことを言っています。
「その気になれば、元気玉さえ たぶんできるだろう…」
元気玉はドラゴンボールの中でもかなり特殊な技で、作中では界王様から直接伝授された悟空しか使用したことがありません。
しかし、設定上、悟空の細胞(記憶と技術)を持っているセルであれば、理論上は可能なはずです。
ですが、ここで多くのファンが疑問に思うはずです。「じゃあ、なんで悟飯との最終決戦で使わなかったの?」
今回は、この「セルの元気玉」にまつわる謎を、技の仕様(跳ね返し特性)、エネルギーの総量(同意問題)、そして戦術的合理性という観点から考察していきます。
セルは元気玉を「作れる」と判断できる理由
結論から言うと、セルは元気玉を『技術的』には問題なく作れるが、悟飯たち相手には、仮に作っても意味がないだろうということです。
なぜそのような結論に至るのか。順を追って解説していきます。
まず、「セルは悪だから元気玉を作れないのではないか?」という疑問を持つ方もいるかもしれませんが、原作において「悪人は元気玉を作れない」という明確なルールは提示されていません。
界王様が悟空に教えたのは、「元気の集め方」と「コントロールの難しさ」です。必要なのは「気を感知し、集める技術」と「集中力」です。
セルは、ドクター・ゲロのスパイロボットが採取した細胞から作られています。 悟空の細胞が「元気玉の技術・記憶」を持っている以上、セルはそのプロセスを実行可能です。
また、気を集めるためには「心を静める(集中する)」必要があるとされますが、セルは非常に理知的で冷静なキャラクターです。フリーザのような感情的な爆発も見せますが、基本的には極めて高度な気のコントロール能力を持っています。 「技術的なエミュレーション」によって、元気玉を形成すること自体は、彼の発言通り「その気になれば可能」であると考えられます。
つまり、セルは作れます。では、作れるのになぜ使わないのか? ここからが本題です。
第一の障壁:元気玉を作るのにかかる時間
まず最初に考えられるのが、元気玉という技の構造的欠陥、すなわち技を発動するまでに時間がかかりすぎる、という点です。
「待機時間」の無防備さ
元気玉を作るためには、両手を空に掲げ、気が集まるのをじっと待つ必要があります。 ナメック星でのフリーザ戦を見てもわかる通り、悟空が特大の元気玉を完成させるまで、ピッコロ、クリリン、悟飯が死に物狂いでフリーザの足止めをしてくれたからこそ、あの技は成立しました。
地球でのベジータ戦も同様に、悟空は元気玉を作り出すまでの時間の捻出に非常に頭を悩ませていました。
しかし、セルゲームは基本的に「1対1(タイマン)」です。セルジュニアを生み出して足止めさせることは可能ですが、相手はあのスーパーサイヤ人2の悟飯です。セルジュニアを一撃で粉砕するほどのスピードとパワーを持つ悟飯を前に、数分間も「万歳ポーズ」で無防備な姿を晒すというのは選択肢としてはとりにくいでしょう。
とはいえ、セルが最後にかめはめ波を使用した時も、太陽系を破壊できるほどのエネルギーを溜めるまでに非常に時間をかけていました。
悟飯もすでに諦めモードでエネルギーを溜めている間にセルに対して攻撃をしようというそぶりは一切ありませんでした。
それであれば、この時に元気玉を使用しても状況は同じであったはずです。
しかし、セルが元気玉を使用しなかった理由は他にもあります。
第二の障壁:最大の欠陥「跳ね返し」システム
セルが元気玉を使わなかった最大の理由の二つ目は、 元気玉という技が持つ、ある致命的な仕様にあります。
サイヤ人編でのベジータ戦を思い出してください。 クリリンが放った元気玉を、悟飯は真っ向から受け止めそうになりましたが、悟空のテレパシーが飛びました。
「はねかえせ悟飯!! そいつは味方だ!! 悪の気がない者ならはねかえせるはずだ!!!」

このセリフが、元気玉の性質を決定づけています。 元気玉とは、単なる物理エネルギーの塊ではなく、「悪の気を持つ者に特効ダメージを与え、善なる心を持つ者には害をなさない(あるいは制御を許す)聖なるエネルギー」なのです。
ちょっと都合が良すぎる感じもしますが、実際にそのような描写がある以上、ひとまずそのように解釈するしかありません。
(実際には元気玉には本来そのような特性はなかったという可能性もあるとは思います。悟空もあの時は悟飯が跳ね返すしかないと考えて、「はねかえせるはず!」と助言をしたのが、角度などの条件がうまく重なって跳ね返せただけというだけだったのかもしれません。これはこれで都合がよすぎる展開ですが。。)
つまり、もしセルが元気玉を作り、スーパーサイヤ人2の悟飯に投げつけたとしても、おそらく高確率で悟飯は元気玉を跳ね返すことができてしまうのです。
悟空たちの記憶を持つセルであれば、当然そのような元気玉の特性を知っていた事でしょう。
これはセルにとって致命的です。自分が長い時間をかけてチャージした巨大なエネルギー弾を、悟飯にあっさりと跳ね返されてしまう。しかも、戻ってきた元気玉は、「悪の気を持つセル」に対しては特効ダメージ(クリティカルヒット)を与えます。
そう考えれば、セルがこの時に元気玉を決め技として選択しなかった理由として納得がいくと思います。
第三の障壁:エネルギーの「強制徴収」と「同意」の決定的違い
次に、エネルギーの「集め方」における出力の問題です。
元気玉には、大きく分けて2つのモードが存在すると私は考えています。
モードA:環境エネルギーの強制徴収(サイヤ人編・フリーザ編)
「星よ、海よ、元気をわけてくれ」と念じ、「自然界に漂っているエネルギー」を吸い上げる方法。 これには、相手(草木や動物)の明確な同意は必須ではないように見えます。
モードB:知的生命体からの同意による譲渡(ブウ編)
魔人ブウを倒した「超元気玉」です。 ベジータが全人類に呼びかけ、手を上げるように指示しました。 しかし、ベジータや悟空の呼びかけでは人々の信頼を得られませんでした。
最終的にはミスターサタンの協力により、人々が手を上げてくれることになったのですが、その瞬間、爆発的な量の気が集まりました。
しかし、セルではこの時のミスターサタンのように「同意」が得られないということです。
セルは全人類の敵です。彼が「元気を分けてくれ!」と叫んでも、誰も手を上げてくれないでしょう。
つまり、セルは「知的生命体の莫大なエネルギー(モードB)」を利用できず、「環境エネルギー(モードA)」しか集められません。
当時の地球から集められる自然エネルギーでは、せいぜい地球発襲来時のベジータを倒せるかどうかというレベルのものでしかありません。仮に地球周辺からも集めたとしても、当時のフリーザですら倒せないような威力しかありません。
自前の「太陽系破壊かめはめ波」に比べれば、豆鉄砲のような威力にしかならないでしょう。
しかも、かめはめ波であれば元気玉よりもエネルギーを溜める時間をコントロールしやすいだろうと考えられます。これも非常にメリットですね。
結局かめはめ波が最適解
以上のことから、セルが最終局面で選んだ技について再評価します。
- 元気玉:
- 威力:自然エネルギーのみで低い
- 時間:非常に長い(無防備)
- リスク:悟飯に跳ね返されて即死
- かめはめ波:
- 威力:自身の完全体パワー+再生復活パワーで「太陽系破壊」レベル(元気玉よりも威力としても上)
- 時間:元気玉の違って溜める時間の調整が可能
- リスク:撃ち合いに負けない限りは安全
比較するまでもありません。セルが最後の決め技としてかめはめ波を選んだのは、自身の莫大な戦闘力を、最も効率よく、最も短時間で、最も高威力で相手に叩きつける唯一の手段だったからです。
さらにいうと、悟飯の父である悟空が最も得意とする技で終わらせるというのが、悟飯たちにとってもっとも屈辱と絶望感を与える方法だということが分かっていたからこその選択だったのでしょう。

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