ドラゴンボール 第36話のあらすじ考察「第1試合」

ストーリー
引用元 ドラゴンボール 集英社

其之三十六「第1試合」は、『週刊少年ジャンプ』1985年36号に掲載されたエピソードです。
前回の其之三十五「対戦決定!!」で、予選を勝ち抜いた8名による本戦の組み合わせがくじ引きで決定し、いよいよ天下一武道会・本戦の幕が上がります。

栄えあるシリーズ初の本戦・第1試合は、クリリン対バクテリアン。ところがこの記念すべき一戦、フタを開けてみればバトル漫画らしからぬ「悪臭対決」でした。
今回は、この一見ふざけた試合に込められた鳥山明先生の意図と、後の『ドラゴンボール』を語るうえで見逃せないいくつかの伏線について、じっくり考察していきたいと思います。

其之三十六「第1試合」のあらすじ

予選を突破した8名(孫悟空、クリリン、ヤムチャ、ジャッキー・チュン、ナム、ギラン、ランファン、バクテリアン)が出そろい、本戦がスタートします。
試合は武舞台の上で行われ、場外に落ちるか、ダウンして10カウント以内に立てないか、あるいは降参すれば負け。武器の使用や目つぶし、急所攻撃は禁止という、いたってシンプルなルールです。

そして始まった第1試合の相手は海パン一丁で、体にはハエがたかり、生まれてから一度も風呂に入ったことがないという強烈な男です。彼の武器は、その全身から放たれる殺人的な「悪臭」。口臭、体臭、すかしっ屁と、あらゆる方向からの臭気でクリリンを攻め立てます。

引用元 ドラゴンボール 集英社

観客はもちろん、距離をとっているはずの他の選手や審判までもが思わず鼻をつまみ、なかでも犬のように鼻のきく悟空は人一倍苦しみます。同じく出場者であるヤムチャは、バクテリアンを「おそろしい怪力の持ち主」と評し、その戦法を「相手に鼻をふさがせて両手を使えなくし、そのスキに攻撃を仕掛けるのだ」と分析します。狙いどおり、悪臭でひるんだクリリンは防戦一方となり、ついには武舞台に沈められてしまいます。

倒れたクリリンに、バクテリアンはカウント中にもかかわらず容赦なく踏みつけの追い打ちをかけ、カウントは無情にも「9」まで進みます。絶体絶命――その瞬間、観客席の悟空が叫びます。「クリリンには鼻がねえじゃねえか!」と。

引用元 ドラゴンボール 集英社

確かに改めて見ると、クリリンの顔にはもともと鼻がありません。臭いを感じる器官がないのですから、悪臭攻撃が効くはずがなかったのです。
「気のせいだった」と気づいたクリリンは正気を取り戻し、すっくと立ち上がります。鼻がないという事実に動揺するバクテリアンは、なおも象すら逃げ出すというタン(痰)攻撃を繰り出しますが、もはや臭いに怯まないクリリンに軽々とかわされ、強烈な蹴りを浴びてダウン。

そしてとどめは、なんとクリリン自身の「おなら」。鼻のあるバクテリアンは自分が得意としたはずの臭気をまともに浴び、悶絶。「ま、まいった……」と轟沈し、クリリンが逆転勝利を収めたのでした。

引用元 ドラゴンボール 集英社

シリーズ初の「本戦」が、まさかの悪臭バトルである理由

ここで立ち止まって考えたいのは、なぜ鳥山先生が、記念すべき天下一武道会・本戦の第1試合に、このバクテリアン戦を据えたのかという点です。

連載史を振り返ると、『ドラゴンボール』は当初それほど人気が高かったわけではなく、掲載順位が二桁にまで落ち込んだ時期もありました。担当編集の鳥嶋氏から「主人公が地味だ」と指摘され、修行の成果を披露する場として天下一武道会編が始まると、悟空のキャラクターが確立され、人気は急上昇していきます。

その大事な初戦に、シリアスな実力者同士のぶつかり合いではなく、あえて「臭い」という反則級にくだらない武器の対決を持ってきた。ここに鳥山先生らしさが凝縮されています。緊張感が高まりすぎる前に、まずは思いきり肩の力を抜かせる。笑いとアクションのバランスを取りながら、読者を本戦という新しいステージへと自然に引き込む。第1試合をギャグで始めるという構成は、一見すると軽く見えて、実は計算された「掴み」だったと見ることができます。

ちなみに掲載順を見ると、前回の第35話が3位だったのに対し、本話は7位、続く第37話も8位と、本戦突入直後は一時的に順位を落としています。第1試合・第2試合のコミカルな滑り出しから、悟空が本格的に動き出す中盤にかけて再び順位が上がっていく流れは、データの面からも興味深いところです。

「クリリンには鼻がない」――設定の妙か、後付けか

この試合最大の見どころは、やはり「クリリンには鼻がない」という一点に尽きます。
注目すべきは、これがこの試合のためにとってつけた設定ではなく、初登場時からずっとクリリンの顔に描かれ続けてきた「絵としての事実」だということです。
読者は何十話にもわたってクリリンの鼻のない顔を見てきたはずなのに、誰もそれを「弱点を無効化する強み」だとは考えていませんでした。だからこそ、悟空の一言で一気に視界が開ける、あの爽快な逆転劇が成立したのです。

意図的に張られた伏線だったのか、それとも連載中に思いついた妙手だったのか――真相は定かではありません。ですが、結果として「キャラクターデザインそのものが勝敗を分ける鍵になる」という、漫画ならではの鮮やかな解決を生み出しました。視覚的な特徴を物語のギミックへと昇華させる手腕は、後年の鳥山作品にも通じる発想と言えるでしょう。

なお、バクテリアンの公式プロフィールでは「嫌いなもの=鼻の無いやつ」とされています。よりにもよって最も相性の悪い相手と当たってしまった彼の不運も、この試合の味わい深いところです。

ダウン中の「追い打ち」はルール違反ではない?

見逃せないのが、ダウンしたクリリンに対し、バクテリアンがカウント中に踏みつけで追撃を加えている点です。本来なら反則を疑われてもおかしくない行為ですが、審判から特に咎められた様子はありません。

ただし、ダウンした相手への追い打ち自体は、この試合だけの特殊な描写ではありません。
同じ本戦の準決勝・悟空対ナム戦では、回転攻撃で目を回してダウンした悟空めがけて、ナムが必殺の天空×字拳を見舞っています(悟空はカウント寸前で立ち上がり、辛うじてKO負けを免れました)。
さらに後年の第22回大会・決勝、悟空対天津飯戦では、天津飯がマシンガン拳で悟空を半ば気絶状態に追い込み、さらには胸ぐらを掴んで宙吊りにし、強制的にダウン状態を解除した上で「排球拳」を容赦なく畳み込んでいます。

ドラゴンボール 第128話のあらすじ考察「天下一のスーパーバトル」
前話其之百二十七「クリリンの作戦、悟空の作戦」では、準決勝で悟空がクリリンとの激闘を制し、決勝への切符を手にしました。もう一方の準決勝では天津飯がジャッキー・チュンを撃破し、いよいよ亀仙流vs鶴仙流の最終決戦が幕を開けます。其之百二十八「天…

こうして並べてみると、ダウン中の追い打ちは、むしろ天下一武道会の本気の戦いではしばしば起こる光景でした。
バクテリアンの踏みつけは、さらに審判によるカウントがすでに始まっている状態での追い打ちですので、一般的な武道大会のルールに照らすとかなり悪質性が高く反則と取られてもおかしくないと思うのですが、初期天下一武道会の荒っぽさとルールの緩さを象徴する一コマと言えるでしょう。

知恵で戦うクリリン、その原点

この一戦は、クリリンというキャラクターの立ち位置を決定づけた試合でもあります。以降のクリリンは、純粋なパワーやスピードよりも、頭の回転と機転で局面を打開する「知恵の戦士」として描かれていきます。次の試合で見せる意外な作戦の数々も、その延長線上にあると言えるでしょう。

ただし見落としてはならないのは、「鼻がない」という核心に気づいたのが、クリリン本人ではなく悟空だったという事実です。窮地のクリリンを救ったのは、外から飛んできた悟空の一言でした。つまりこの勝利は、クリリン一人の手柄ではなく、亀仙人のもとで共に修行をしてきた二人の「友情」が引き寄せたものでもあります。気づきを与えたのは悟空、それを信じて立ち上がり、最後の一発を決めたのはクリリン。この役割分担にこそ、二人の関係性が表れているように思えてなりません。

鳥山明が「好きなバトルベスト5」に選んだ一戦

意外に思われるかもしれませんが、このクリリン対バクテリアン戦は、鳥山先生自身が選ぶ「好きなバトルベスト5」の第4位に挙げられています。先生は「シリアスな闘いより、こういうバカバカしい闘いのほうがずっと好き」と語っており、悪臭とおならで決着するこの試合を、数あるシリアスな名勝負よりも高く評価しているのです。

後年の『ドラゴンボール』は、戦闘力のインフレや宇宙規模の死闘へと突き進んでいきます。しかしその原点には、「強さを競う物語」であると同時に「あくまで楽しいギャグ漫画でありたい」という作者の願いがありました。
第1試合のバクテリアン戦は、その初期衝動が最も純度高く表れたエピソードであり、だからこそ鳥山先生のお気に入りなのだと考えると、深く納得させられます。

まとめ

其之三十六「第1試合」は、天下一武道会・本戦のオープニングを飾る記念すべき一話でありながら、悪臭とおならというくだらなさで読者の意表を突く、まさに鳥山明流の「掴み」でした。クリリンの「鼻がない」という設定の鮮やかな回収、全編唯一のカウント中追い打ち、そして知恵の戦士クリリンの誕生と、考察の種が随所に散りばめられています。

くだらないようでいて、実は『ドラゴンボール』という作品の本質――強さへの憧れと、それを包み込むユーモア――が凝縮された名エピソード。それがこの第1試合だったのではないでしょうか。

さて、次の其之三十七「第2試合」では、いよいよ正体不明の老武道家ジャッキー・チュンが登場します。亀仙流で修行を積んだヤムチャを相手に、この謎の老人はどんな戦いを見せるのか。次回も引き続き、一話ずつじっくりと考察していきます。

コメント