第21回天下一武道会の本戦1回戦も、いよいよ大詰めです。前回の第38話「第3試合」ではナムがランファンのお色気作戦を跳ね返して勝ち上がり、これで本戦トーナメントの1回戦も残すところあと一つとなりました。そう、みんなが待ちわびていた主人公・孫悟空の初戦、その名も第39話「第4試合」の登場です。
ところが、この記念すべき悟空の本戦デビュー戦、相手は見るからにひと癖もふた癖もある怪獣のような大男。そして物語は、なんと悟空が全身をガムで巻かれ、身動きひとつ取れなくなるという大ピンチのまま幕を閉じます。
今回はこの其之三十九「第4試合」を、あらすじの確認と読みどころの考察に分けて、じっくり味わっていきましょう。
本戦トーナメントの状況をおさらい
まずは、ここまでの本戦トーナメントを整理しておきます。予選を勝ち抜いた8名による本戦は、1回戦(準々決勝)の4試合からスタートしました。
- 第1試合:クリリンが勝ち上がり
- 第2試合:ジャッキー・チュンがヤムチャを撃破
- 第3試合:ナムがランファンを退ける
- 第4試合:孫悟空 vs ギラン ← 今回
つまり第4試合は、1回戦の最後を締めくくる一戦であると同時に、修行の成果を引っさげた悟空が、初めて本戦の舞台で強敵とぶつかる注目のカードでもあるわけです。読者としては「亀仙人のもとで鍛えた悟空は、いったいどれほど強くなったのか」を確かめる場面。期待は否が応でも高まります。
ここで見落としがちなのが、悟空の本戦初戦がわざわざ1回戦の“最後”に配置されている構成の妙です。第1試合から第3試合までで、読者はすでにクリリン、ヤムチャ、ナムといった顔なじみの戦いを見届けています。その盛り上がりを一段ずつ積み上げたうえで、大トリに主人公を持ってくる。これによって「いよいよ悟空だ」という高揚感が最大化される仕掛けになっているのです。
あらすじ:怪獣ギラン、そして“巻かれて動けない悟空”
第4試合の相手・ギランは、怪獣のような姿をした荒くれ者です。もともと組み合わせが決まった其之三十五「対戦決定!!」の段階から、その異様な風貌で強烈な存在感を放っていました。荒っぽい性格で卑怯な手を得意とし、故郷ではその名を知らぬ者がいないほど恐れられている暴れ者──というのが、ギランという選手です。
試合が始まると、ギランはさっそく本領を発揮します。不意をついた攻撃で悟空を壁に叩きつけ、いきなり主導権を握ろうとするのです。

ところが、これが全く効きません。平然としている悟空を前に、ギランはその打たれ強さに思わず驚きます。ここで早くも「こいつ、ただのガキじゃないぞ」という空気が漂い始めます。
反撃に転じた悟空は、強烈なパンチをギラン腹に見舞い、そのまま場外へと投げ飛ばします。
普通ならこれで悟空の勝ち……と思いきや、ギランには切り札がありました。背中の2枚の羽で悠々と空を飛び、武舞台へ舞い戻ってきたのです。ギランは「自分は空を飛べるから場外負けはない」と豪語していましたが、その言葉どおり、場外負けというルールを真正面から無効化してみせました。

真っ向勝負では分が悪いと見たギランは、ここで得意技を繰り出します。口から吐き出す粘着質の体液「グルグルガム」です。このガムで悟空の全身をぐるぐる巻きにし、動きを完全に封じ込めてしまうのです。あれほど打たれ強く、パワーで圧倒していた悟空が、ガムに搦め捕られて手も足も出ない。まさかの展開に会場が凍りつく──そんな最大のピンチを残して、第39話は幕を閉じます。

まさに絶妙な引きです。「全身を巻かれて動けなくなった悟空は、この絶体絶命をどう切り抜けるのか」という宿題を読者に残して、物語は次回へと続いていきます。強さを見せつけるどころか、主人公がぐるぐる巻きにされたまま終わるという、この思い切った締め方こそが本話最大の見どころだと言ってよいでしょう。
怪獣ギランという異色の挑戦者
ギランの魅力は、なんといってもその怪獣然としたビジュアルにあります。人語を話し、天下一武道会というルールのある競技に出場しているにもかかわらず、見た目は完全に東宝特撮のような二足歩行の怪獣。ドラゴンボールという作品に鳥山明先生が持ち込んだ、独特のユーモアとごった煮感が凝縮されたキャラクターだと言えるでしょう。
面白いのは、組み合わせ抽選の場面で、審判からわざわざ「怪獣ギランさん」と呼ばれていることです。ここには、彼が“怪獣というあだ名の人間”なのか、それとも“文字どおりの怪獣”なのか、判然としない絶妙なとぼけ味があります。強さの序列がまだ人間の範囲に収まっていたこの時期のドラゴンボールにおいて、ギランは「人ならざる者」の気配をさらりと持ち込んだ存在でした。のちの世界観の広がりを思うと、この飄々としたセンスの怪獣が、案外と象徴的にも見えてきます。
しかもギランは、単なる“かませ役の怪物”では終わっていません。荒っぽく卑怯でありながら、羽で飛んで場外を無効化し、ガムで相手を封じるという、はっきりとした「勝ち筋」を持って試合に臨んでいます。悟空の打たれ強さに素直に驚いてみせるあたりにも、どこか憎めない愛嬌があります。強敵というよりは“異物”として悟空の前に現れ、正攻法では測れない厄介さを突きつけてくる──そんな一筋縄ではいかない相手だからこそ、この第4試合は記憶に残るのです。
「飛べるから場外負けはない」という反則級の強み
この試合でまず光るのが、ギランの飛行能力です。天下一武道会の勝敗の付け方は、大きく分けて「相手を戦闘不能にする」か「相手を場外に落とす」かの二つ。つまり“場外に出す”ことは、実力で相手を倒しきれなくても勝てる、有力な勝ち筋のひとつです。
ところがギランは、この勝ち筋の片方を丸ごと封じてしまいます。悟空に場外へ投げ飛ばされても、2枚の羽で悠々と飛んで戻ってくる。「自分は空を飛べるから場外負けはない」という豪語は、ただのハッタリではなく、ルール上の大きなアドバンテージだったのです。
これは裏を返せば、「ギランを倒すには、場外に出すのではなく、きっちり戦闘不能に追い込むしかない」という条件を、対戦相手に突きつけているということでもあります。搦め手の怪獣が、じつはルールの穴を的確に突いてくる曲者だった──そう考えると、この一戦の緊張感が一段と増して感じられます。
グルグルガムという“拘束”の戦法
そしてこの試合、戦術面での最大の読みどころが、ギランの得意技「グルグルガム」です。相手を殴って倒す、投げ飛ばして場外に出す、という力比べが基本の天下一武道会において、ギランは「相手の動きそのものを封じる」という搦め手を持ち込みました。
これがなかなか厄介なのは、いくら悟空が打たれ強く、パワーがあっても、そもそも体を動かせなければ何もできないという点です。純粋な打撃戦なら悟空に分がありそうなところを、ギランは真っ向勝負を避け、自分に有利な土俵へと引きずり込んでみせたわけです。卑怯な手を得意とする、という彼の設定が、ただの性格描写ではなく戦術としてきちんと機能しているのが見事です。
しかもこのグルグルガムは、ギラン自身の体から分泌されたもの。道具の持ち込みが制限される武道会でも、体の一部として出したものであれば咎めようがありません。力任せではなく、ルールの隙間を突くようなしたたかさ。ギランは見た目こそ怪獣ですが、その立ち回りは意外なほど人間くさく、油断のならない相手なのです。
バラエティ豊かな“1回戦の顔ぶれ”と、悟空戦の締めくくり方
改めて1回戦の顔ぶれを振り返ると、その多彩さに気づかされます。第1試合の悪臭で戦うバクテリアン、第2試合の達人ジャッキー・チュン、第3試合のお色気で翻弄するランファン、そして第4試合の搦め手を操る怪獣ギラン。まるで「格闘技のいろいろな“変化球”を、一通り見せてやろう」とでもいうように、タイプの異なる相手が並んでいます。
正攻法の実力者だけでなく、臭い・色仕掛け・拘束技といった“まともにぶつかっては勝てない相手”をあえて配置することで、天下一武道会という舞台が「ただの殴り合いではない」ことが示されているのです。そのバラエティの締めくくりとしてギランが置かれ、悟空が真っ向勝負を封じられる展開は、1回戦全体を通したテーマの総仕上げのようにも見えてきます。
そして何より見事なのが、この試合をあえて決着させずに終える構成です。主人公の初戦を、勝利の瞬間ではなく、最大のピンチで区切る。普通なら「悟空、圧勝!」で気持ちよく終わらせたくなるところを、鳥山先生はぐっとこらえ、読者に「この先どうなる?」という強い引きを残しました。悟空の強さを一気に見せびらかすのではなく、ためて、ためて、次章で解き放つ。この呼吸こそが、ドラゴンボールという作品が読者を離さなかった理由の一つなのだと、改めて実感させられる一話です。
次回への引き
第39話「第4試合」は、悟空の本戦デビューを、あえて主人公が最も追い詰められた場面で締めくくるという、実に心憎い一話でした。
怪獣ギランの飛行とグルグルガム、そして眠れる伏線「悟空のシッポ」。派手な決着技はまだ出ていないのに、読みどころがぎゅっと詰まっています。
全身を巻かれ、身動きの取れなくなった悟空は、この窮地をどう脱するのか。そして、しっぽのない悟空に、いったい何が起こるのか。その答えは、次回・其之四十「悟空のシッポ」で明らかになります。第4試合の決着、そしてその先に控える準決勝──クリリン対ジャッキー・チュン、孫悟空対ナム──へと向かう物語の続きを、どうぞお楽しみに。

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