人造人間編からドラゴンボールにタイムトラベルというSF要素が追加されたことにより、タイムパラドックスをどう解釈するかというのが、物語における重要な伏線になっていました。
下記の記事でも解説をしている通り、ドラゴンボールでは並行世界概念でタイムパラドックスを解釈しているようです。
上記の記事ではあくまで人造人間の呼称に特化して考察をしていますので、本記事では改めてドラゴンボールのタイムパラドックス全体を包括する形で考察をしていきたいと思います。
タイムパラドックスとは何か?
まず、タイムパラドックスとはどのような概念なのか、その定義と世の中にたくさんあるタイムトラベルを扱った作品ではどのようにタイムパラドックスを解釈しているか、代表的なものを紹介していきます。
タイムパラドックスとはタイムマシンなどで時間軸をさかのぼって過去を改変した際に起こる因果律の矛盾のことを指し、有名なのは親殺しのタイムパラドックスでしょう。
これは、ある人物が過去にさかのぼって自身が生まれる前に親を殺した場合、その人物は生まれないことになるが、そうなると過去にさかのぼって親を殺す者もいなくなってしまいます。
しかし、親が死なないということは、その人物はやはり生まれることになり、時間をさかのぼって親を殺すことができることになります。親を殺せるということは、自分が生まれないことになり…といった具合に堂々巡りになってしまう論理的パラドックスのことを指します。
この論理的パラドックスをどのように解釈し、物語として成立させるかがタイムトラベル作品における重要な主題の一つとなっています。
過去の改変が何らかの事象により阻止される
これは過去は不変のものであり、そもそも親を殺すなどの未来の事象に影響を与えるような行動をすることはできないという解釈です。
具体的には、親を殺そうとした際に誰かに阻止をされたり、何らかの理由により失敗に終わってしまうというものです。
過去の改変をを阻止しているのが時間の流れ自体に意思があり、
過去の改変が修復される
上記の解釈の派生形で時間の流れには自己修復能力的な解釈を取り入れている作品もあります。
この解釈は、過去にさかのぼって歴史的事実に改変を加えたとしても、結果的に同じような事象が時間がずれて発生するというものです。
具体的には例えば第二次世界大戦が起こる前にさかのぼってヒトラーを殺害をしたとしても、ヒトラーに代わる人物が同じような戦争を引き起こしてしまうというものです。
つまり、小さな事象に変更を加えることができても、時代の大きな流れを変えることはできないというものです。
しかし、この解釈では大局的な視点で歴史の流れを変えることはできないものの過去の改変自体は可能になるため、親殺しのタイムパラドックスの矛盾は解決できていません。
過去の改変を織り込んだ上で未来の事象が成立している
これはドラえもんなどの作品などでみられる解釈ですが、主人公が過去にさかのぼって何らかの事象に影響を与えたとしても、その主人公の過去の行動そのものがすでに時間の流れの中に織り込まれており、未来につながるというものです。
しかし、この解釈では自分の親を殺した場合のようにタイムパラドックスが生じるような過去の改変は成立しえないめ、そもそもタイムパラドックスが生じるような行動はできない。つまり「過去の改変が何らかの事象により阻止される」と本質的には同じということになります。
過去の改変により並行世界(パラレルワールド)が生まれる
これがドラゴンボールが採用している解釈です。
過去にさかのぼって何らかの事実の改変を行った瞬間に並行世界(パラレルワールド)が発生し、過去の改変が行われた世界と過去の改変が行われなかった世界が枝分かれしてしまうというものになります。
この解釈では、親殺しのタイムパラドックスの矛盾を解決することができるものの物語の展開が非常に複雑になる傾向があります。
ドラゴンボールも例外ではなく、物語の進行過程で何度か並行世界が枝分かれして派生したと考えられる描写があり、様々な謎や矛盾が生まれてしまっています。
次の章ではこのドラゴンボールの並行世界の謎を詳細に紐解いていきたいと思います。
並行世界はいつ発生したか?
前述したようにドラゴンボール世界のタイムパラドックスを解決するための解釈は並行世界(パラレルワールド)です。
つまり、物語の途中でタイムパラドックスが発生する事象が起こるたびに世界が分岐し、パラレルワールドが生まれることになりますが、原作を読む限り、パラレルワールドが発生するきっかけにりうるタイミングは以下の3つです。
- セルが未来からタイムマシンでエイジ763年にやってくる
- トランクスがフリーザ親子を倒す
- トランクスが悟空に心臓病の薬を渡す
- クリリンとトランクスがドクターゲロの地下組織を破壊する
これらはいずれも未来からやってきた者による過去への干渉によって起こった事象です。
しかし、実際にドラゴンボールのストーリー内で世界線が分岐するほどに影響を与えた行動は、おそらく1番目と3番目のみなのではないかと思いますが。
このあたりについては、後ほど詳しく解説をしていきます。
人造人間のナンバリングの変化について
また派生したパラレルワールドを識別する上で重要なポイントとして、下記の記事でも考察をしていますが、人造人間の呼称に関わる問題があります。
トランクスが初めて未来からやってきた際に悟空たちに伝えた人造人間のナンバリングは19号、20号でした。
しかし、実際に3年後に登場した人造人間19号、20号はトランクスが認識してた姿形ではなく、17号、18号に置き換わっていました。
これだけなら、何らかのタイムパラドックスによって並行世界が派生し、人造人間のナンバリングも入れ替わってしまったのだと解釈することができますが、不思議なことに少年少女タイプの人造人間を19号、20号と認識していたはずのトランクスが、二度目に未来からやってきた時には元々17号、18号と認識していたかのような発言をするのです。
さらに、トランクスが未来に帰って人造人間と戦った際には、人造人間同士も17号、18号と呼び合っていました。
つまり、トランクス世界の人造人間のナンバリングまで置き換わってしまったことになります。
この不可思議な謎については上記の記事でも詳しく考察をしていますが、一度目に未来からやってきたトランクスと二度目に未来からやってきたトランクスは、それぞれ別の世界線からやってきのではないかという解釈です。
おそらくドラゴンボールの世界線は以下のように複数の世界線に分かれていたと思われます。
世界線A:一度目にやってきたトランクスがいる世界線。少年少女タイプの人造人間は19号、20号
世界線B:二度目にやってきたトランクスがいる世界線。少年少女タイプの人造人間は17号、18号
世界線C:ドラゴンボールの物語の展開上の世界線。少年少女タイプの人造人間は17号、18号
世界線Bはおそらくセルが未来からきた時点で世界線Aから分岐したはずです。
世界線Cはトランクスが未来からやってきて悟空に心臓病を渡した時点で別れたのでしょう。
そして、何らかの理由により世界線Cに、二度目のトランクスは世界線Bからやってきた。そのため、そのトランクスが認識してる少年少女タイプの人造人間は19号、20号から17号、18号に変わってしまっていたということですね。
セルがやってきた世界線Xはいつどのように生まれた?
では、最初に世界線Aにやってきたセルはいったいどの世界線からやってきのたでしょうか?
ひとまずここでは、セルがやってきた世界線をXとします。
この世界線Xでは、セルの言葉を信用すると何らかの方法でトランクスが人造人間17号、18号を倒すことに成功したため、セルが二人の人造人間を吸収することができなかったようです。
そのため、セルはトランクスを殺してタイムマシンを奪って過去に戻ることになります。
ここまでの考察を元にした世界線の分岐を図にすると以下のようになります。
それぞれの世界線ごとの人造人間のナンバリングと悟空が心臓病で死亡しているか、生存しているかの違いがあります。
この図を見て世界線Xは、世界線Aである可能性はないか?考える人もいると思います。
世界線Aの未来から世界線Aの過去にやってきたとして問題ないのではないかということですね。
しかし、世界線Aでは少年少女タイプの人造人間は19号、20号であるのに対して、セルがやってきた世界線の少年少女タイプの人造人間は17号、18号だったとセル本人が言っているので、これはありえません。
では、一度目に未来からやってきたトランクスが帰っていった世界線Bはどうでしょうか?
世界線Bであれば人造人間のナンバリングもあっています。
しかし、世界線Bはそもそも世界線Aから派生していますので、世界線Aに影響を与えることができません。
つまり、世界線Xはすべての始まりの世界線であり、世界線Aが派生したのもおそらくこの世界線Xからだと思われますが、ドラゴンボールの物語内にはその世界線Xが生まれる原因となった事象は描かれていないのだろうという結論になってしまいます。
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