前話其之二十一「満月」で、ピラフ城のガラス天井付きの牢獄に閉じ込められた悟空たちは、翌朝の灼熱処刑を前に絶望的な状況に追い込まれていました。
しかし、満月を目にした悟空が巨大な大猿へと変身し、制御不能のまま城を破壊し始める——という衝撃のラストで幕を閉じました。
本話「悟空の大変身」は、その暴走の顛末と収束を描くエピソードです。
其之二十二「悟空の大変身」のあらすじ
前話で大猿へと変身した悟空は、完全に理性を失い、暴走を続けています。ピラフ城の鋼鉄の壁も、頑丈なガラス天井も、大猿の膂力の前ではまったく無力。城は瓦礫の山と化していきます。
ブルマ、ヤムチャ、ウーロン、プーアルたちは、牢が破壊されたおかげで脱出には成功しますが、今度は暴走する大猿から逃げなければならないという新たな危機に直面します。大猿はピラフ城の塔を引きちぎり、ヘリコプター(ピラフ一味の飛行機)を叩き落とすなど、まさに怪獣映画さながらの大暴れを繰り広げます。

この混乱の中、ヤムチャが重要なことを思い出します。それは、悟空の弱点が「尻尾」であるということ。以前の戦いで、悟空は尻尾を握られると力が抜けてしまうことが判明していました。ヤムチャはこの弱点を利用して、大猿の暴走を止める作戦に出ます。
ヤムチャが決死の覚悟で大猿に近づき、尻尾を掴んで押さえつけると、大猿悟空は一気に力が抜けてぐったりとなります。この隙に、プーアルがハサミに変身して悟空の尻尾を切断。すると、大猿の体はみるみるうちに縮小し、悟空は元の少年の姿に戻りました。ただし、服は大猿への変身時に破れてしまったため、全裸の状態で気を失っています。
一方、ピラフ一味は散々な目に遭いながらも何とか生き延びています。城をめちゃくちゃに壊されたピラフたちですが、ギャグキャラクターとしての「不死身」ぶりを発揮し、大猿に飛行機を墜落させられても多少黒こげになった程度で済むという、この作品独特の「お約束」が炸裂しています。
こうして、ドラゴンボール集めの冒険は一区切りを迎え、次話「ドラゴンチーム解散」へと物語はつながっていきます。
ヤムチャの活躍
後のシリーズでは「かませ犬」「ネタキャラ」の代名詞として扱われがちなヤムチャですが、この第22話のヤムチャの活躍は、彼の判断力と行動力がもっとも光るエピソードのひとつだといってもいいと思います。
大猿化した悟空が暴走する中、パニックに陥る他の仲間たちの中で、冷静に「尻尾を掴めば力が抜ける」という情報を思い出し、実行に移したのはヤムチャだけでした。
実は、この弱点情報は、以前ヤムチャが悟空と戦った際に偶然発見したものでした。敵として戦っていた時に得た情報が、仲間として危機を救うために使われるという展開は、ヤムチャの立場の変化——「敵」から「仲間」への転身——を象徴するシーンとしても読めます。
さらに興味深いのは、ヤムチャが自ら尻尾を切断するのではなく、プーアルにハサミへの変身を指示した点です。自分は尻尾を押さえるという最も危険な役割を引き受けつつ、切断作業はプーアルの変身能力に任せています。このチームワークは、ずっと行動を共にしてきたからこそできる連係プレーだといえます。
プーアルの変身能力の凄まじさ
ヤムチャの活躍の影に隠れがちですが、この回で特に注目に値するのは、プーアルの変身能力ではないでしょうか。
プーアルはウーロンと同じ南部変身幼稚園の出身ですが、ウーロンが途中退園(女の先生のパンツを盗んで退園処分)だったのに対し、プーアルはきちんと卒園しています。この違いが、変身能力の差としてはっきりと表れています。ウーロンの変身には5分間という時間制限がありますが、プーアルにはそのような制限がなく、さらに変身した物体の機能まで再現できるという、とんでもない能力を持っています。
大猿悟空の身体は通常の人間とは桁違いの強度を持っていることは、ピラフ城の鋼鉄の壁をいとも簡単に破壊したことからも明らかです。それなのに、プーアルが変身したハサミはその尻尾をスパッと切断してしまう。

これは、プーアルの変身が単なる外見の模倣ではなく、「目的に応じた性能」を発揮できることを示唆しています。つまり、「大猿の尻尾を切れるハサミ」として変身した以上、その切れ味は大猿の肉体を切断するのに十分なレベルに達していたということになります。
こう考えると、プーアルの変身能力は、後のシリーズで登場する戦闘力インフレの中でも活躍するポテンシャルを秘めていた可能性はあります。
もっとも、プーアル自身の戦闘センスや戦意がそれほど高くないため、この能力が戦闘面で本格活用されることはありませんでしたが。
ピラフ一味のギャグ補正と不死身っぷり
この回でもう一つ笑ってしまうのは、ピラフ一味の「死なないっぷり」です。
大猿悟空に城をめちゃくちゃに壊され、さらには飛行機で逃げようとしたところを叩き落とされ、機体は爆発炎上。普通に考えたら即死案件です。ところが、ピラフ・シュウ・マイの三人は「多少黒こげになった」だけで生き延びています。
このギャグ補正はピラフ一味の「持ち味」として、その後も一貫しています。占いババ編ではピラフマシンを悟空にミサイルごと投げ返されて爆破されますが黒こげで済み、ピッコロ大魔王編では飛行船から突き落とされますが地面に穴が空いた程度で無傷。つまり、この第22話で確立された「ピラフ一味は死なない」というお約束が、以降ずっと守り続けられているわけです。
鳥山先生はピラフ一味を明確に「ギャグの文法」で動かしています。悟空たちが「バトルの文法」で戦っている横で、ピラフ一味だけは別のルールで生きている。だからこそ、世界征服を企む「悪役」であるにもかかわらず、読んでいて嫌な気持ちにならないし、むしろ愛されるキャラクターになっているのだと思います。

次話「ドラゴンチーム解散」では、仲間たちはそれぞれの道に分かれ、悟空は亀仙人のもとでの修行編へつながっていきます。ドラゴンボール集めの旅の終わりと、武道家・孫悟空の始まり——その転換点に位置するのが、まさにこの第22話だといえるでしょう。

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