ドラゴンボール 第33話のあらすじ考察「修業の威力!!」

ストーリー
引用元 ドラゴンボール 集英社

前回の其之三十二「天下一武道会はじまる!!」では、八ヶ月にわたる亀仙流の修業を終えた悟空とクリリンが、ついにパパイヤ島の天下一武道会会場へと乗り込みました。
長い修業のあいだ背負わされ続けた重い甲羅をようやく脱ぎ捨て、二人がその成果を初めて見せつけた――あの解放感あふれる場面が記憶に新しい方も多いでしょう。そして大会の幕が上がり、五年に一度の大舞台がいよいよ動き出しました。

その続きとなる今回・其之三十三「修業の威力!!」は、サブタイトルどおり、積み重ねてきた修業の”答え合わせ”がついに実戦のリングで示される回です。
そしてこの回、主役は悟空ではありません。スポットライトが当たるのは――クリリンです。修業編でずっと悟空の相方として描かれてきた彼が自分の過去と向き合うことになる地味ながら見逃せない一話になっています。
それでは、其之三十三「修業の威力!!」を一緒にじっくり見ていきましょう。

其之三十三のあらすじ

天下一武道会の予選が本格的に動き出します。
この第21回大会の参加者は137名。彼らは複数の試合場へ振り分けられ、一発勝負のトーナメントで勝ち上がっていきます。ここを突破した上位8名だけが、本戦のリングに立つことを許される――つまり一度でも負ければそこで終わりの、シビアな勝ち抜き戦です。

ところが、クリリンに回ってきたくじ運がとんでもなかった。
予選の対戦相手として彼の前に現れたのは、なんと、かつて自分が身を置いていた古巣・多林寺のナンバー1だった兄弟子。クリリンにとってこの相手は、ただの強敵ではありません。額に残る六つの点が物語るように、彼はもともと多林寺で武道を学んでいた身。
しかし「お前はみこみがない」と仲間たちにバカにされ、いじめに耐えかねて飛び出してきたという過去があります。

引用元 ドラゴンボール 集英社

その”見下してきた連中”の頂点に立っていた男と、よりによって最初に当たってしまったのです。
リングで相手の顔を見た瞬間、クリリンの中に昔の記憶がよみがえります。かつて手も足も出なかった、絶対的な先輩。身体は修業で別人のように鍛え上げられたはずなのに、心の奥に刻まれた恐怖はそう簡単には消えません。クリリンは怖気づき、一瞬、このまま降参してしまおうかとまで考えてしまう。修業の成果を信じきれず、過去のトラウマに足がすくむ――それがゴングが鳴る前のクリリンの本音でした。

ところが、です。いざ試合が始まってみると――勝負は一瞬で決しました。
クリリンは、かつて自分を圧倒したはずの兄弟子の攻撃を、まるで止まって見えるかのように軽々と躱します。そして次の瞬間、強烈な蹴りを一発。相手はなすすべもなく、そのまま場外まで吹っ飛ばされてしまいました。文字どおりの圧勝です。あれほど怯えていた相手を、たった一蹴りで。

誰よりも驚いていたのは、ほかならぬクリリン自身でした。自分の身体が、いつの間にこれほどの力を手に入れていたのか。牛乳配達に畑仕事、あの一見ムダに見えた日々の労働が、絶対強者だったはずの兄弟子を瞬殺できる地力を、確かに自分に与えていた。「修業の威力」を、本人が誰よりも実感した瞬間です。
悟空もまた同様に対戦相手を一瞬で倒しますが、悟空はいち早く自分たちが修業によって、とんでもない力を身につけているということに気づきます。

引用元 ドラゴンボール 集英社

なお、この大会には亀仙人自身も”ジャッキー・チュン”という偽名で密かにエントリーしています。彼は弟子たちの戦いぶりを静かに見つめながら、自分の教えた修業が確かな実を結んでいることを噛みしめている――その視線もまた、この回の見どころのひとつと言えるでしょう。

派手な強敵戦ではなく、無名の兄弟子戦を選んだ意味

この回を読んでいてまず唸らされるのは、鳥山先生が「修業の威力」を見せる相手に、強烈な敵キャラではなく、地味な多林寺の兄弟子を据えたという選択です。

普通の少年漫画なら、修業明けの実力披露は、いかにも強そうな大物相手にド派手な技を炸裂させて――という流れにしたくなるところでしょう。ところがここで選ばれたのは、名前すら与えられていない、ただ「多林寺のナンバー1だった先輩」という肩書きだけの相手です。

でも、これこそが抜群に上手いんです。なぜなら、強さというのは”基準点”があって初めて測れるものだから。クリリンにとって多林寺の兄弟子は、かつての自分が絶対に勝てなかった「強さのものさし」そのものです。
読者は、いじめられて逃げ出した過去のクリリンを知っています。その彼が、当時のものさしを一蹴りで吹き飛ばす。つまりこの一戦は、「修業前のクリリン」と「修業後のクリリン」の差を、兄弟子という鏡を使って可視化する装置になっているわけです。

見知らぬ強敵をボコボコにしても、読者には”どれだけ強くなったか”が伝わりにくい。けれど、かつての宿敵をあっさり倒せば、その成長幅が一発で腑に落ちる。
「修業の威力」というテーマを伝えるのに、これ以上ふさわしい相手はいなかった。派手さを捨てて説得力を取った、実に職人的な構成だと思います。

「地力」が「伝統」を打ち砕いた一戦

もう一歩踏み込むと、このクリリン対多林寺の兄弟子戦は、二つの異なる”鍛え方”がぶつかった対決として読むこともできます。

多林寺は、おそらく型稽古や組手を中心に据えた、いわゆる正統派の武道道場でしょう。一方、クリリンが飛び込んだ亀仙流の修業は、前にも触れたとおり、牛乳配達や畑仕事といった肉体労働、そして規則正しい食事と睡眠で身体の”地力そのもの”を底上げするという、極めて異質なアプローチでした。技を磨いた多林寺のナンバー1と、地力を磨いた亀仙流のクリリン。両者がリングで激突した結果は――地力の圧勝でした。

ここには、鳥山先生(あるいは亀仙人)の一つの思想が透けて見えます。どれほど洗練された技を持っていても、それを支える肉体の基礎が桁違いに上であれば、技は通用しない。スピードもパワーも段違いなら、相手の攻撃はそもそも当たらず、こちらの一撃は防ぎようがない。クリリンが兄弟子の攻撃を”止まって見える”かのように躱せたのは、まさにこの地力の差ゆえです。

「強さとは何か」という問いに対して、『ドラゴンボール』は一貫して「まず圧倒的な身体を作れ」と答え続ける作品です。その答えの原型が、この何気ない予選の一戦にすでにくっきりと刻まれている。技巧派が地力派に屈するこの構図は、のちのちまで繰り返されるこの作品の”お約束”の出発点でもあるのです。

ちなみに、クリリンの古巣「多林寺(おおりんじ)」が、実在の少林寺をもじったネーミングであることはファンによく知られた小ネタです。
額に並ぶ六つの点も、修行僧が戒律の証として残すお灸の痕を思わせるもの。こうした細部の遊び心が、クリリンというキャラクターに独特の出自の奥行きを与えています。そんな由緒ある古巣のトップを、飛び出していった落ちこぼれが見下ろす――そう考えると、この勝利の痛快さはひとしおですね。

じつは「修業の威力」は、連載『ドラゴンボール』そのものの威力だった

ここからは少しメタな視点を。これがこの回を語るうえで、僕がもっとも興奮するポイントです。
実はこの天下一武道会編が始まるまで、『ドラゴンボール』の連載は決して順風満帆ではありませんでした。週刊少年ジャンプでの掲載順位は徐々に下がり、ちょうどこの修業編に入るあたりの其之三十一では12位まで落ち込んでいたと言われています。
掲載順位の12位というのは、当時のジャンプにおいては”打ち切り”が現実味を帯びる危険水域。あの『ドラゴンボール』が、危うく消えていたかもしれない時期だったのです。

担当編集だった鳥嶋和彦氏は、鳥山先生にこう指摘したと伝えられています。「主人公が地味だ。だから人気がない」。この一言を受けて鳥山先生は、それまで冒険活劇の色が濃かった物語に、「強さを追い求める主人公」という明快なテーマを与える方向へと舵を切りました。その転換点こそが、亀仙人のもとでの修業であり、そして――天下一武道会だったのです。

そう考えると、其之三十三「修業の威力!!」というサブタイトルは二重の意味を帯びてきます。作品の中では悟空とクリリンの修業の成果を指していますが、メタの次元では、テコ入れとして投入された「修業→大会で実力を示す」という新方針そのものの”威力”を示す回でもある。
事実、天下一武道会編に突入すると『ドラゴンボール』の人気はみるみる上昇し、掲載順位は3位以内へと急浮上。以降、連載終了まで上位を維持し続けることになります。

弟子たちが下積みの成果を爆発させるこの回は、奇しくも作品自身が下積みの時期を抜け出して大ブレイクへ駆け上がっていく、その瞬間と重なっている。これを偶然と片づけるのは少しもったいない。「努力は必ず報われる」というこの作品の根幹のメッセージを、物語と現実の両方で同時に証明してしまった回――そう読むと、何でもない予選の一話が急に味わい深く見えてきませんか。

まとめ

其之三十三「修業の威力!!」は、強敵との激闘も派手な必殺技も出てこない、本戦前の予選を描いた地味な一話です。けれども、

  • かつて自分を見下した古巣・多林寺のナンバー1を、一蹴りで場外へ吹き飛ばすクリリンの圧勝劇
  • 強敵ではなく”昔の自分の基準点”を相手に選ぶことで、成長幅を鮮やかに可視化する構成の妙
  • 磨き上げた「技」より、徹底的に作り込んだ「地力」がものを言う――作品全体を貫く強さの哲学の原点
  • 身体は超えても心はまだ怯える――トラウマの克服までも描く、人間味あふれる弱気の演出
  • 打ち切り危機からの人気急上昇という、作品自身の運命とも重なるメタ的な意味合い

と、短いながらも見どころと読みどころがぎっしり詰まった、味わい深い回です。「努力は裏切らない」というこの作品の根っこにあるメッセージが、いじめられっ子だったクリリンの拳を通して、もっとも説得力のあるかたちで証明される――それが「修業の威力!!」なのだと思います。

さて、予選を順調に突破していく悟空とクリリン。次回・其之三十四「天下無敵!」では、本戦出場をかけた戦いがさらにヒートアップしていきます。
修業を経た二人はどこまで勝ち上がるのか、そして偽名”ジャッキー・チュン”として大会に潜む亀仙人の思惑やいかに――引き続き追いかけていきましょう。

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