ドラゴンボール 第26話のあらすじ考察「?(ふしぎ)な女の子ランチ」

ストーリー
引用元 ドラゴンボール 集英社

前話其之二十五「ライバル?参上!!」では、悟空の二度目のぴちぴちギャル探しと、クリリンの初登場が描かれました。
エロ本の手土産で亀仙人の歓心を買おうとするクリリンの小賢しさ、筋斗雲にも乗れる純粋な人魚のエピソード、そして「ライバル?」のクエスチョンマークが示す悟空とクリリンの微妙な距離感——第25話は亀仙流修行編のキャラクターを揃える準備回でした。
そして本話「?な女の子」では、修行編最後のピースとなるキャラクター——くしゃみで性格が激変する謎の女性・ランチが初登場します。

其之二十六「?(ふしぎ)な女の子」のあらすじ

前話で亀仙人から「ぴちぴちギャルを連れてこい」という修行の条件を改めて突きつけられた悟空とクリリンは、筋斗雲に乗って二人一緒にぴちぴちギャル探しに出かけます。

すると眼下に、警察車両に追われながら猛スピードで逃走している一人の女性を発見します。金髪で目つきが鋭く、バッグには大金が詰め込まれている。実は彼女——ランチは、銀行強盗を働いた直後で、警察とカーチェイスの真っ最中だったのです。初登場の時点ですでに警察に名前を知られているほどの常習犯です。

引用元 ドラゴンボール 集英社

しかし——逃走中に髪が鼻にかかり、ランチは盛大にくしゃみをしてしまいます。
その瞬間、金髪は黒髪に変わり、目つきも柔らかくなり、口調もおっとりとしたものに一変する。乗っていたバイクも転倒し、本人はなぜ自分が警察に追われているのかまったく理解できず、困惑した表情で立ち尽くしています。手元のバッグに大金が入っているのを見て、自分の「もう一つの人格」が何かやらかしたのだろうと察するものの、事情がわかるはずもありません。

この時点で上空から眺めている悟空とクリリンの目に映ったのは、警察に囲まれて怯えている一人の美しい女の子です。「ぴちぴちギャル」の条件に合致する——そう判断した二人は、地上に降り立ちます。

悟空は警官たちを蹴散らし、ランチを救い出します。
黒髪のランチは、自分が何をしたのかもわからないまま、見知らぬ少年たちに助けられたことに戸惑いながらも感謝を示します。クリリンはランチの美しさに「これなら亀仙人も文句なしだ」と確信し、悟空とともにランチを筋斗雲に乗せてカメハウスへ向かいます。

ここで注目すべきは、ランチが筋斗雲に乗れたという事実です。筋斗雲は清い心の持ち主でなければ乗れない乗り物であり、ブルマも亀仙人も乗ろうとしてすり抜けてしまった。つまり黒髪のランチは、悟空と同等レベルの「清い心」の持ち主だということになります。

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三度目のぴちぴちギャルを乗せた筋斗雲が、カメハウスへと飛んでいく——第26話はここで幕を閉じます。
がたいのでかいギャル、下半身が魚の人魚に続く三度目の挑戦。果たして今度こそ亀仙人は満足するのか。そしてこのおとなしい美少女の「もう一つの顔」を、カメハウスの住人たちはまだ知らない。
読者だけが知っている不穏な伏線を残して、物語は次話「ランチのクシャミ」へと続きます。

タイトルの「?」が示すもの

このエピソードのタイトルは「?(ふしぎ)な女の子」です。前話の「ライバル?参上!!」に続き、二話連続でクエスチョンマークがタイトルに入っています。

第25話の「ライバル?」は、クリリンが悟空のライバルになり得るのかという読者への問いかけでした。
第26話の「?な女の子」は、ランチという存在そのものが「?」であることを示しています。

この「?」は、作中の登場人物と読者の双方に向けられたものです。
悟空とクリリンにとっては「なんでこの子は警察に追われていたんだ?」という素朴な疑問。
読者にとっては「さっきの金髪の凶暴な女と、この黒髪のおとなしい女の子は同一人物なのか?」という、より深い層の疑問。
そして鳥山先生自身にとっては「こういうキャラクターを読者は面白がってくれるだろうか?」という、新キャラ投入の賭けでもあったはずです。

鳥山先生は、キャラクターの本質をタイトルの一文字で表現してしまう天才です。
クリリンの「ライバル?」は、やがてクエスチョンマークが外れて本物のライバルであり親友になっていく。
しかしランチの「?」は、最後まで外れることがありません。なぜくしゃみで性格が変わるのか、金髪と黒髪はそれぞれ別の人格なのか、それとも同一人物の表裏なのか——作中で一度も説明されることはない。物語が終わるまで、いや物語が終わっても、ランチという存在は「?(ふしぎ)」のままです。

この「説明しない」という選択が、鳥山先生の最大の武器の一つです。通常の少年漫画であれば、二重人格の原因——幼少期のトラウマや特殊な病気——を物語の中で説明し、それを乗り越えるエピソードが用意されるでしょう。しかし鳥山先生はそれをしない。ランチはただ「くしゃみで変わる」。理由はない。尻尾が生えた少年が満月を見て大猿に変身する世界で、くしゃみで性格が変わる女の子がいたって何の不思議もない。
この「深掘りしない潔さ」こそが、ドラゴンボールの世界観の広さを支えています。

「ぴちぴちギャル」三部作の完結——そして最も巧妙な伏線

第24話から第26話にかけて展開された「ぴちぴちギャル探し」は、振り返ってみると見事な三段構成になっています。

第一のギャル(第24話):がたいのでかいギャル。悟空の「イキがいい」という解釈による失敗。亀仙人は一目見て却下。
第二のギャル(第25話):人魚。上半身は完璧な美女だが下半身が魚。亀仙人は一瞬ぬか喜びするものの、「ぱんちい」を履いていない理由が期待とはまったく異なる方向で的中してしまう。
第三のギャル(第26話):ランチ。見た目は文句なしの美女。筋斗雲にも乗れる清い心の持ち主。しかし——。

一回目は「見た目が違う」、二回目は「身体が違う」、三回目は「性格が違う(ことを誰も知らない)」。
ぴちぴちギャルの条件を少しずつクリアしていきながら、毎回別の「落とし穴」が用意されている。鳥山先生の構成力の巧みさを改めて思い知らされます。

しかもこの三段構成には、もう一つの仕掛けがあります。
一回目と二回目のギャルは一話限りのモブキャラとして退場しますが、三回目のランチだけはレギュラーキャラとしてカメハウスに住み続けることになる。つまり、三度のギャル探しは「ランチという新レギュラーを物語に導入するための段取り」だったのです。

第26話の巧みさは、この「落とし穴をまだ見せない」という演出にあります。
読者は冒頭で金髪ランチの銀行強盗シーンを見ている。だから黒髪ランチの裏にある凶暴な人格を知っている。しかし悟空もクリリンもそれを知らない。この「読者だけが知っている情報」が、次話への強烈な引きになっている。鳥山先生はここで、サスペンスの基本技法——「観客に爆弾の存在を知らせておく」というヒッチコック的手法——を見事に使いこなしています。

ランチの「筋斗雲テスト」が暗示する深い設定

先述の通り、黒髪のランチは筋斗雲に乗ることができます。これは第26話の中で明確に描かれている事実です。筋斗雲に乗れるキャラクターは、作中で非常に限られています。悟空、前話の人魚、チチ(幼少期)、そしてランチ。いずれも「清い心の持ち主」という共通点があります。

ここで興味深いのは、「金髪のランチは筋斗雲に乗れるのか?」という疑問です。
銀行強盗を働き、後にマシンガンを乱射し、ハイジャックまでしかねない金髪のランチが「清い心」の持ち主であるとは考えにくい。もし金髪のランチが筋斗雲に乗った場合、彼女はすり抜けて落ちてしまう可能性が高い。

つまり、ランチの「くしゃみで変わる」という特異体質は、単に性格や見た目が変わるだけではなく、魂のレベルで別人格になっている可能性があるということです。筋斗雲という「心の清さ」を測定する装置が、二つの人格を明確に区別してしまう。

ドラゴンボールの世界では、「心の清さ」は単なる比喩ではなく物理法則です。筋斗雲に乗れるかどうかは、道徳的な善悪ではなく、ある種の「エネルギー的な属性」として機能している。その法則に基づけば、黒髪のランチと金髪のランチは、同じ肉体を共有する二つの異なる魂だと考えることもできます。

もちろん、鳥山先生がここまで設定を考えていたかどうかは不明です。しかし筋斗雲という仕掛けが存在するからこそ、後の読者がこうした考察を楽しむことができる。意図的であれ偶然であれ、鳥山先生の設定構築は考察の余地を常に残してくれるのです。

ブルマ退場後の「女性キャラ不在」を埋める構造的必然

ランチの登場には、物語構造上の必然性がありました。
ドラゴンボール集め編が終わり、ブルマ・ウーロン・ヤムチャ・プーアルといったレギュラー陣が一旦退場しています。悟空が亀仙人のもとに弟子入りする新章に入った時点で、画面に映るのは悟空・クリリン・亀仙人・ウミガメという男だらけの所帯です。

ピクシブ百科事典には、「物語からブルマが退場したことでレギュラーの女の子キャラがいなくなり、登場キャラが男性ばかりのむさくるしい所帯になってしまった事に対する処置」がランチ登場の一因ではないか、という推察が載っています。

この見方は非常に的を射ています。冒険編においてブルマが果たしていた役割——冒険の場に「日常」と「ツッコミ」と「色気」を持ち込むことで物語にリズムを与える——を、修行編で引き継いだのがランチだったのです。

しかもランチは、ブルマにはなかった「二面性」という武器を持っています。後の話で描かれることになりますが、黒髪のランチがカメハウスの「生活」を支え(料理・洗濯・悟空たちの世話)、金髪のランチがカメハウスの「日常」を破壊する(マシンガン乱射・大金持ち逃げ)。この二面性によって、カメハウスは「修行の場」でありながら「コメディの舞台」でもあるという二重構造を手に入れることになります。

鳥山先生は物語のバランスに対する嗅覚が鋭い作家であり、「今、この物語に何が足りないか」を本能的に嗅ぎ取れる。第26話の時点では、まだランチの全貌は明かされていませんが、この嗅覚が生み出したキャラクターが筋斗雲に乗ってカメハウスに向かっている——その事実だけで、修行編の未来に豊かな色彩が加わることが予感できます。

ランチはなぜ物語から「消えた」のか——複数の説を検証する

ランチは後の物語において徐々に出番が減り、やがてほぼ完全に姿を消すキャラクターです。
第23回天下一武道会を最後に原作漫画から退場し、サイヤ人編の冒頭でクリリンの口から「5年前、天津飯さんをおっかけてどっかいっちゃいましたよ」と語られるのみとなります。初登場時にこれほど魅力的に描かれたキャラクターがなぜ消えたのか。ファンの間では長年にわたって複数の説が議論されてきました。

引用元 ドラゴンボール 集英社

まず最も有名なのが、「鳥山先生が忘れた」説です。鳥山先生自身、大全集のインタビューで自分が作ったキャラクターや設定をよく忘れることを認めており、ランチについても同様だった可能性があります。また、魔人ブウ編で悟空の元気玉に協力する場面の下描きではランチが描かれていたものの、最終的には人造人間17号に差し替えられたことも公式に明かされています。
17号が「悟空の声を懐かしむような発言」をしているのは、元々ランチのセリフだった名残だと言われています。

次に、「バトル漫画への転換で居場所がなくなった」説。
ドラゴンボールが天下一武道会以降、本格的なバトル漫画に舵を切っていく中で、「いつマシンガンを乱射するかわからない女性」をバトルの場に連れていくことは構造的に難しかった。ランチは戦えないが、黙って待つこともできない。くしゃみ一つで場の空気を壊してしまう予測不能性は、ギャグ漫画のテンポを生む強力な装置でしたが、シリアスなバトル展開とは致命的に相性が悪かったのです。

そしてもう一つ、ファンの間で根強く語られてきたのが、「解離性同一性障害(DID)への配慮」説です。
ランチの「くしゃみで性格が激変する」という設定は、現実の解離性同一性障害(かつて「多重人格障害」と呼ばれた症状)を連想させるものでした。精神障害者の支援団体や医療関係者から、二重人格をギャグとして面白おかしく描くことへのクレームが入り、キャラクターを退場させざるを得なくなった——という都市伝説がファンコミュニティで広まっています。

実際、漫画『まほらば』がアニメ化される際に、ヒロインの解離性同一性障害という設定が「変身」という別の設定に変更された前例があり、創作における二重人格描写がセンシティブに扱われてきた歴史は確かに存在します。また、当時は「多重人格」という概念自体がセンセーショナルに扱われていた時代背景もありました。
ただし、ランチの場合にクレームがあったという確たる証拠は存在せず、鳥山先生本人もこの点について一切言及していません。あくまで都市伝説の域を出ない話ではあるものの、ランチの「消失」に複合的な要因が絡んでいた可能性は否定できないでしょう。

なお、この問題について興味深い反論もあります。ネット上の議論では「ランチは髪の色や身体能力まで変わっているのだから、もはや精神医学的な多重人格ではなく変身能力だ」という指摘や、「当時でも二重人格キャラは他の漫画にも多数いたのだから、ランチだけが規制される理由がない」という意見も見られます。
確かに、ドラゴンボールの世界ではブルマが縮小カプセルで家を出し入れし、悟空が大猿に変身するのですから、ランチのくしゃみ変身もまた「この世界のルール」の一つとして描かれていたと見るのが自然です。

さらに2025年3月、長年の謎に一つの答えが示されました。ラジオ番組『ゆう坊&マシリトのKoso Koso放送局』にて、ランチ役の声優・小山茉美氏が「私が留学のためしばらく日本を離れるので、ランチさんを出さないでくださいって鳥山先生に直接お願いした」と明かしたのです。
少なくともアニメにおいてランチの出番が減った背景には、声優自身からの具体的な要望が存在していたことになります。

おそらく、ランチの「消失」は単一の理由では説明できません。声優の留学、バトル路線への転換、鳥山先生の性格(不必要なキャラは描きたがらない傾向)、そしてもしかしたら二重人格描写への時代的な感度——これらが複合的に重なり合った結果が、あの「5年前、天津飯さんをおっかけて——」という一言に凝縮されているのでしょう。

第26話の「到着前」で幕を閉じる意味

第26話は、ランチを乗せた筋斗雲がカメハウスに向かう途中で終わります。カメハウスに到着し、ランチの「もう一つの顔」が明かされるのは次話・第27話「ランチのクシャミ」です。

この「到着前」で幕を引くという構成は、実に計算されています。
第26話の時点で読者が見たランチは、冒頭の金髪状態を除けば、おっとりとした黒髪の美少女でしかありません。筋斗雲にも乗れる純粋な心の持ち主で、助けてくれた悟空とクリリンに感謝するやさしい女の子。「ぴちぴちギャル」としてこれ以上ないほど完璧です。

しかし読者だけが冒頭のシーンを覚えている。あの金髪の強盗犯が、今おとなしく筋斗雲の上に座っている。カメハウスに着いたら何が起こるのか。いつくしゃみをするのか。亀仙人はどうなるのか——。

この「まだ何も起こっていない」状態でページをめくらせる引力が、第26話の真の力です。鳥山先生は爆弾を仕掛けたまま、導火線に火を点けずに話を終わらせている。読者は次週のジャンプを買わずにはいられない。

連載漫画における「引き」の技術として、これは極めて高度な構成です。派手なバトルの途中で「続く」とするのは簡単ですが、おとなしい女の子が筋斗雲に乗っているだけの平穏なシーンで次回への渇望を生み出す——これができるのは、第26話で読者に「爆弾の存在」を十分に印象づけているからです。

悟空とクリリンの冒険は、この「?な女の子」との出会いによって、予測不能な方向へ動き出します。
次話「ランチのクシャミ」では、カメハウスに到着したランチが亀仙人に対面し、いよいよあの「もう一つの顔」が悟空たちの前で明かされることになります。
亀仙流修行編は、このくしゃみ一つで、喜劇と恐怖が交互に訪れるカオスな日常へと突入していくのです。

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