ドラゴンボール 第28話のあらすじ考察「修業はじまり!!」

ストーリー
引用元 ドラゴンボール 集英社

前話の其之二十七「ランチのクシャミ」では、悟空とクリリンが亀仙人の出した弟子入りの条件をクリアし、無事にランチという女の子を連れて帰ることに成功しました。しかし、ランチにはくしゃみをすると凶暴な金髪の人格に変わってしまうという厄介な体質があり、カメハウスは早速大騒ぎになりました。

そして其之二十八「修業はじまり!!」では、いよいよ亀仙人のもとでの修業がスタートします。ドラゴンボール探しの旅を終えた悟空が、武道家として本格的に鍛えられていく物語の転換点であり、後の天下一武道会編へと繋がっていく重要なエピソードです。

其之二十八「修業はじまり!!」のあらすじ

亀仙人は、修業を始めるにあたって「もっと広い島に引っ越す」と宣言します。カメハウスのある小さな島では修業をするスペースが足りないという、至極もっともな理由です。

ここで亀仙人は、カメハウスをホイポイカプセルに収納してしまいます。家ごとカプセルにしまえてしまうというのは、この世界ならではの光景ですが、よく考えると亀仙人はこの技術をしっかり活用しているわけです。
ドラゴンボールの世界では、カプセルコーポレーションが開発したホイポイカプセルの技術があらゆる場面で使われていますが、孤島に住む老人がこうした最新テクノロジーを当たり前のように使いこなしているのは、亀仙人という人物の懐の深さを感じさせます。

悟空は筋斗雲に全員乗れるか心配しますが、亀仙人はボートで移動すると言います。
4人(亀仙人、悟空、クリリン、ランチ)はホバーボートに乗り込み、新しい島へと向かいます。この時、亀仙人がランチに「くしゃみをせんでちょうだいね」とお願いしているのが何とも微笑ましいですね。海上のボートの中でランチが金髪に変わったら、それこそ大惨事です。

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新しい島に到着

島に到着すると、亀仙人は「夕飯までやってみよう」と修業のスケジュールを告げます。
しかし悟空は早速筋斗雲に乗って島の上空を飛び回り、偵察を始めてしまいます。戻ってきた悟空は「他にも家がある」と報告。亀仙人によれば、この島には300人ほどの住人がいるとのことです。

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つまり、カメハウスのあった元の小さな島とは比べものにならないほど大きな島に移ってきたことがわかります。修業をするためにわざわざ引っ越すという亀仙人の判断は、今後の修業内容(牛乳配達やジャングルでのランニングなど)を考えると、非常に合理的なものだったと言えるでしょう。

ランチは、自分は修業には参加しないが夕飯の準備をすると申し出ます。ところが、ランチがくしゃみをしそうな素振りを見せたため、亀仙人・悟空・クリリンの3人は慌てて岩の後ろに隠れます。しかし実際にはただの「あくび」だったというオチ。
前話でランチの金髪モードの恐ろしさを存分に味わった3人にとっては、もはやトラウマレベルの反応になっているわけです。

100メートル走 ─ 実力テスト

ここからがこの話の最大の見どころです。亀仙人は修業を始める前に、まず悟空とクリリンの基礎体力を確認するため、100メートル走のタイムを計ることにします。亀仙人が見たいのは「速さ」そのものではなく、「脚の確かさ」だと言っています。武道においてまず大切なのは下半身であるという、非常に理にかなった考え方です。

まずクリリンが走ります。クリリンは多林寺で8年間修業を積んでおり、走ることに関してもかなりの自信を持っています。実際、スタート前にはクラウチングスタートの姿勢をとっており、これは陸上競技の経験があることを示唆しています。クリリンは自分の自己ベストが10秒1であることも明かしています。

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結果、クリリンのタイムは10秒4。自己ベストには届きませんでしたが、これは13歳の少年としては驚異的なタイムです。現実世界で考えると、100メートル10秒4というのは一般的な成人男性の陸上選手でもかなりの好タイムであり、オリンピックに出場できるレベルに近い記録です。クリリン自身も「オリンピックに出場できるくらい」という趣旨の発言をしていますが、これは決して誇張ではありません。

13歳でこのタイムを出せるということは、クリリンは多林寺時代にいじめを受けていたとはいえ、その身体能力は間違いなく超一流だったことがわかります。「女の子にモテたい」という不純な動機で武道を始めたクリリンですが、その才能は本物だったのです。

次に悟空が走ります。悟空のタイムは8秒5。クリリンを大きく上回る記録です。100メートル8秒5は、現実世界のウサイン・ボルトの世界記録(9秒58)を軽く凌駕する速度です。

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時速に換算するとおよそ42km/hで、これは自動車が一般道を走る速度に匹敵します。12歳の少年がこの速度で走れるというのは、もはや人間の範疇を超えています。
しかし、本当に度肝を抜かれるのはここからです。

亀仙人の実力 ─ 5秒6の衝撃

亀仙人は「最近運動不足じゃから、どんなもんかの?」と言いながら、ゴキゴキと体をほぐし始めます。そしておもむろに走り出した亀仙人のタイムは、なんと5秒6。

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この数字のインパクトは凄まじいものがあります。時速に換算するとおよそ64km/hです。これは一般道を走る自動車の法定速度を超える速度であり、もはや人間がどうこうというレベルではありません。しかも亀仙人は300歳を超える老人であり、しかも「運動不足」を自覚している状態でこのタイムを叩き出しているのです。

さらに注目すべきは、走り終えた後の亀仙人のリアクションです。「まあまあかな、そんなもんじゃろ…」という反応からは、亀仙人にとってこのタイムが特別なものではないことが読み取れます。つまり、全盛期の亀仙人はさらに速かった可能性があるということです。

悟空もクリリンも、この亀仙人の走りを見て圧倒されます。特にクリリンは、自分が誇りにしていた走力で完全に格の違いを見せつけられたわけですから、そのショックは相当なものだったでしょう。

ランチの暴走で幕引き

修業初日のプログラムがひと段落したところで、ランチがまたくしゃみをしてしまいます。案の定、金髪のランチに変身。凶暴化したランチはクリリンを追いかけ回し始めます。亀仙人と悟空は賢く茂みの中に隠れてやり過ごすという、なんとも情けない(しかし賢明な)対応をとります。

こうして第28話は、修業の始まりの緊張感とランチのドタバタギャグが絶妙に混ざり合った形で幕を閉じます。

亀仙人の修業哲学 ─ なぜ100メートル走なのか

武術の修業を始めるにあたって、亀仙人がまず100メートル走をさせたという点は非常に興味深いものです。格闘技や武術の世界では、まず「走り込み」が基本中の基本とされています。ボクシングでもキックボクシングでも柔道でも、まずはランニングから始まるのが常識です。

亀仙人は「脚の確かさ」を見ると言っていますが、これは単に足が速いかどうかを見ているのではなく、全身のバランス、体幹の安定性、瞬発力といった武道家としての基礎的な身体能力を総合的に判断しようとしていたと考えられます。

100メートル走というのは、短距離走でありながら全身の筋肉を動員する運動です。上半身と下半身の連動、体幹のブレのなさ、地面を蹴る力の効率的な伝達など、武道に必要な要素がすべて詰まっています。亀仙人がまずこのテストを行ったのは、弟子たちの「伸びしろ」を見極めるためだったのではないでしょうか。

3人のタイム差が語るもの

ここで改めて3人のタイムを整理してみましょう。

  • クリリン:10秒4
  • 悟空:8秒5
  • 亀仙人:5秒6

クリリンから悟空への差は1秒9、悟空から亀仙人への差は2秒9です。100メートル走においてこの差は途方もなく大きいものです。現実の陸上競技では0.1秒の差でも明確な実力差を意味しますが、ここでは秒単位の差がついています。

特筆すべきは、クリリンと悟空の差よりも、悟空と亀仙人の差の方が大きいという点です。悟空は確かにクリリンよりもはるかに速いのですが、亀仙人と比べるとまだまだ子どもだということです。この「師匠との圧倒的な差」が、今後の修業に対するモチベーションとなっていくわけです。

ちなみにクリリンの自己ベストは10秒1であり、今回の計測では10秒4でした。0秒3の差は、おそらく足場の違い(多林寺の整備されたグラウンドと、野外の不整地の違い)や、初めての場所での緊張感などが影響しているのではないかと推測されます。クリリンが本来持っているポテンシャルは、ここで出したタイム以上のものがあるということでしょう。

クリリンの「超人レベル」の身体能力

クリリンのタイム10秒4について、もう少し深掘りしてみましょう。クリリンは13歳で100メートル10秒4を記録しています。現実世界の中学生男子の100メートル走の日本記録がおよそ10秒台後半であることを考えると、クリリンは現実世界でも全国トップレベルの中学生スプリンターということになります。

しかもクリリンはスプリンターではなく武道家です。走ることに特化したトレーニングを積んできたわけではなく、多林寺での武術修業の「副産物」としてこの記録が出ているのです。それだけでも、クリリンの身体的な素養がいかに優れているかがわかります。

ドラゴンボールの物語が進むにつれて、クリリンはサイヤ人やフリーザといった宇宙規模の敵との戦いに巻き込まれていき、どうしても「地球人最強」という立場は相対的に弱い存在として描かれがちです。しかし、この修業開始時点でのクリリンは、地球人としては間違いなくトップクラスの身体能力の持ち主なのです。

後にクリリンは亀仙人の修業を経て、第21回天下一武道会では予選を楽々と突破し、本選でも善戦します。この時点での「10秒4」は、クリリンが持つ潜在能力の高さを示す重要な数字であり、亀仙人の修業によってどれだけ成長したかを測るベースラインにもなっているのです。

悟空の異常性 ─ 8秒5の意味するところ

悟空の8秒5という記録は、世界記録を軽々と上回るものです。12歳の少年がこのタイムを出せるということ自体が、悟空が普通の人間ではないことの何よりの証拠です。

この時点ではまだ悟空がサイヤ人であることは明かされていませんが、読者は悟空の尻尾や大猿への変身といった要素から、悟空が何か特別な存在であることを薄々感じ取っていたはずです。100メートル8秒5というタイムは、そうした「悟空の異常性」を数値で裏付けるものとなっています。

興味深いのは、この「異常な身体能力」を持つ悟空ですら、亀仙人には遠く及ばないということです。鳥山明先生は、この100メートル走のエピソードを通じて、「悟空は確かに天才だが、まだまだ未熟である」というメッセージを読者に伝えているのではないでしょうか。天才が天才のまま無双するのではなく、師匠のもとで修業を積んで成長していくという物語構造が、ここで見事に提示されているのです。

亀仙人の5秒6 ─ 武天老師の底知れなさ

亀仙人の5秒6は、時速約64km/hに相当します。これは「人間の限界」などという次元をはるかに超えた数字です。

しかし、ここで忘れてはならないのは、亀仙人が後に第21回天下一武道会でかめはめ波を使って月を破壊しているという事実です。月を破壊できるほどのエネルギーを持つ人物が、100メートル5秒6「程度」で走っているというのは、むしろ控えめとさえ言えるかもしれません。

もっとも、100メートル走とかめはめ波では使っている能力が根本的に異なります。100メートル走は純粋な身体能力ですが、かめはめ波は体内の潜在エネルギーを凝縮して放出する技です。つまり、亀仙人の場合、肉体的な能力と「気」の能力には別の次元の強さがあるということになります。

これは後のドラゴンボールの世界観においても一貫している設定であり、「気」を使った攻撃力と、純粋な肉体の速度や耐久力は必ずしも比例しないという考え方の原点がここにあると言えるかもしれません。

鳥山明の「数字で語る」演出の巧みさ

この第28話で特に優れているのは、キャラクターの実力差を「100メートル走のタイム」という具体的な数字で示した点です。バトル漫画では、強さを「気迫」や「オーラ」といった抽象的な表現で示すことが多いのですが、鳥山明先生はあえて100メートル走という誰もがイメージしやすいものさしを使いました。

10秒4、8秒5、5秒6。この3つの数字だけで、クリリン・悟空・亀仙人の実力関係が一目瞭然です。しかも、読者は自分自身の100メートル走のタイムと比較することで、キャラクターたちの凄さを体感的に理解できます。

後にドラゴンボールでは「戦闘力」というスカウターの数値でキャラクターの強さが測られるようになりますが、この第28話の100メートル走は、その原型とも言える演出ではないでしょうか。鳥山明先生が「数値で強さを可視化する」という手法に早くから注目していたことがうかがえます。

まとめ

第28話「修業はじまり!!」は、タイトルの通り亀仙流の修業がスタートするエピソードですが、その内容は単なる「修業の導入」にとどまりません。
100メートル走のタイム計測というシンプルなイベントを通じて、悟空・クリリン・亀仙人の実力関係が明確に数値化され、読者に今後の修業の必要性と期待感を同時に提示する、非常に構成力の高いエピソードです。

特に亀仙人の5秒6という衝撃的なタイムは、「武天老師」という称号の重みを見事に裏付けるものであり、この時点での亀仙人が間違いなく「世界最強」クラスの実力者であることを示しています。

次話以降、亀マークの石さがしや牛乳配達といったユニークな修業メニューが展開されていくわけですが、その修業の「出発点」として、この100メートル走のエピソードは非常に重要な意味を持っています。修業前の実力がこの数字で記録されているからこそ、修業後の成長が読者にとってもわかりやすく実感できるのです。

ドラゴンボールという作品が世界中で愛される理由のひとつは、こうした「数字の使い方」の巧みさにあるのではないかと、この第28話を読み返すたびに感じます。

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