ドラゴンボール 第48話のあらすじ考察「猿マネ孫悟空」

ストーリー
引用元 ドラゴンボール 集英社

其之四十八のサブタイトルは「猿マネ孫悟空」です。ところが、ドラゴンボール公式サイトの技紹介を見ると、悟空が猿の動きで相手を翻弄する「猿拳」の初出は、次の其之四十九とされています。
つまりこの回の悟空は、一度も猿の真似をしていないのです。代わりに登場するのは、残像拳の「上乗せ」、酔っ払いの真似、そして狂った犬の真似です。では、このサブタイトルが指している「猿マネ」とは、いったい何だったのでしょうか。

其之四十八「猿マネ孫悟空」のあらすじ

かめはめ波の撃ち合いが相殺に終わり、前話のラストで戦い方を変えると決めたジャッキー・チュン。対する悟空は、次はどんな技が来るのかと、むしろ楽しそうにしています。その態度にカチンときたジャッキーは、残像を残して姿を消します。

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悟空は二人に見えるジャッキーのうち、本物と見当をつけたほうを狙いますが、それも残像でした。本物のジャッキーは背後から悟空を蹴り飛ばし、悟空は壁に叩きつけられます。ジャッキーはこれを、残像を二つ残す「二重残像拳」だと明かします。

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カウントが始まるなか、悟空は大したダメージもなく起き上がり、自分にもできると言い出します。今度は悟空の残像が二つ。ジャッキーはそれを見切って三つ目の悟空に攻撃しますが、それすらも残像でした。本物の悟空は頭上から降ってきてジャッキーの頭に一撃を見舞い、これを「三重残像拳」と名づけます。
頭をはたかれたジャッキーは、思わず「師匠の頭を叩くとは」という意味のことを口走ってしまいます。悟空が怪訝な顔をすると、ジャッキーは慌てて言い間違いだとごまかしました。

気を取り直して構えたジャッキーは、直後にしゃっくりをしながら千鳥足でふらつき始めます。アナウンサーは急に酔っ払ったのかと戸惑い、様子を見に近寄った悟空は頭を叩かれ、背を向けたままのジャッキーに後ろ蹴りを食らいます。観客席のヤムチャが、これは酔拳だと叫びます。悟空は、死んだじいちゃんもこの技が得意だったと口にしますが、酔ったことのない子どもには真似のしようがありません。蹴りはかわされて肘打ちを、突きはかわされて膝蹴りを返され、悟空は一方的に打たれていきます。

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すると悟空は突然背を向けて走り去り、ぶるぶると震え始めます。泣いているのかといぶかるジャッキーの前で振り返った悟空は、よだれを垂らした凶暴な形相に変わっていました。四つん這いで牙をむいて突進してくる悟空に、ジャッキーは思わず身をすくめます。

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悟空はその頭上を跳び越えると、背後から蹴りを入れてジャッキーを壁に叩き込みました。瓦礫の中から起き上がったジャッキーが今の技は何かと尋ねると、悟空は「狂拳(きょうけん)」だと答えます。ジャッキーが、あれは拳ではなく「狂犬」だと言い返したところで、この回は幕を閉じます。

「猿マネ」の三段跳び──其之四十三から続く残像拳の系譜

この回の残像拳の応酬は、突然始まったものではありません。ジャッキー対クリリン戦では、ジャッキーはクリリンの背後に回り込む残像拳で試合を決めました。悟空はそれを観客席から見ていただけですが、続くナム戦の開始直後、さっそく自分でも残像を残してナムの背後を取りにいっています。つまり、ジャッキーの残像拳は、すでに一度悟空に盗まれていたのです。

その前提で其之四十八の二重残像拳を見ると、この技の意味がはっきりします。
相手が残像拳を使えるなら、残像が一つだけではすぐに見破られてしまいます。だから二つに増やす。二重残像拳は、「残像拳を知っている相手」を想定して上乗せされた技だと読むことができます。ナム戦をジャッキーがどこまで観察していたかは作中で明示されていないため、ここは推測にとどまりますが、少なくとも悟空に対して通常の残像拳を出さなかったことは、この読みと矛盾しません。

ところが悟空は、その上乗せすら即座に上書きしてしまいます。公式サイトの技紹介でも、三重残像拳は二重残像拳をその場で真似したうえに残像を増やした離れ業として紹介されています。ここで悟空が真似たのは、技の形だけではありません。「残像の数を増やせば見破られない」という、ジャッキーの工夫の考え方そのものを盗んで、一つ多く積み増したのです。かめはめ波で始まった悟空の「見て盗む」力は、この回で「見て盗み、さらに一段上に行く」という段階へ進んだと言ってよいと思います。

正面の撃ち合いから「死角の奪い合い」へ

其之四十七のかめはめ波は、真正面からの力比べでした。その結果は相殺、つまり引き分けです。そして其之四十八では、勝負を動かす攻撃の性質ががらりと変わります。

この回で決まった大きな攻撃を並べてみます。

  • 二重残像拳:ジャッキーが悟空の背後から蹴る
  • 三重残像拳:悟空がジャッキーの頭上から叩く
  • 酔拳:ジャッキーが背を向けたまま後ろ蹴りを入れる
  • 狂拳:悟空がジャッキーを跳び越え、背後から蹴る

四つとも、相手の視界の外から入っています。正面からの力比べで決着がつかない以上、あとは相手の見ていない場所をどちらが先に取るかの勝負になる。其之四十八は、決勝戦が「力の勝負」から「死角の奪い合い」へと切り替わった回だと整理できます。

興味深いのは、悟空の狂拳の決まり方です。背後から蹴って壁に叩き込むという結末は、この回の冒頭でジャッキーが二重残像拳で悟空にしたことと、ほとんど同じ形になっています。悟空はオリジナルの技を編み出した場面でさえ、仕上げの一撃はジャッキーの攻め方をなぞっているのです。意図的な構成かどうかは分かりませんが、この回の「猿マネ」は、最後の一撃にまで貫かれていると見ることができます。

師匠の頭をはたいた弟子──ジャッキーの口がすべった瞬間

三重残像拳のあと、ジャッキーは「師匠の頭を」と口走り、慌てて取り繕います。これまでジャッキーの正体は、ヤムチャが疑い、悟空が匂いで気づきかけるなど、周囲から暴かれそうになってきました。しかしこの場面で正体を漏らしかけたのは、ジャッキー自身の口です。

なぜここで口がすべったのでしょうか。残像拳は、この大会でジャッキーが最初に披露した技です。その技で、しかも自分より一つ多い残像で上を行かれ、観衆の前で頭をはたかれた。其之四十六でナムに明かしたとおり、ジャッキーは弟子たちに「上には上がいる」と教えるために出場しています。その師匠が、自分の技で弟子に一本取られた瞬間、ジャッキー・チュンという仮面の下から、亀仙人の本音が漏れてしまったのではないでしょうか。

一方の悟空は、その失言にまったく気づきません。前話で筋斗雲の代わりにシッポで空を飛んだ悟空は、この回でも目の前の戦いにしか興味がないようです。

引用元 ドラゴンボール 集英社

これまでにもジャッキーの正体は実は亀仙人ではないかといいう疑惑は何度もヤムチャから提示されていたわけですから、この失言はさすがにまずいでしょうと誰もが思うところですが、「オラの師匠は亀仙人だぞ」と何も気づかない当の悟空。この温度差も、この回の小さな見どころです。

酔拳は「マネさせないための技」だった

かめはめ波は撃ち返され、残像拳は上書きされました。ここでジャッキーが選んだのが酔拳です。公式サイトはこの技を、酔ったことがない未成年の悟空には真似できない技だと説明しています。
ここに、この回のジャッキーの作戦の核心があります。見た技を片っ端から自分のものにしてしまう相手に対して、ジャッキーは「見ても盗めない技」を選んだのです。技の威力でも速さでもなく、真似されないこと自体を武器にしたわけです。

ただ、ひとつ引っかかる点があります。公式サイトもWikipediaも、酔拳を「酔ったふり」をする技と説明しています。本当に酔っているわけではなく、あくまで演技なら、悟空にも真似できそうなものです。それでも悟空に真似できないのはなぜでしょうか。
答えは、「ふり」をするためには、本物を知っていなければならないからだと考えられます。酔っ払いの千鳥足やしゃっくりの外形だけなら真似できても、酔ったときに体がどう揺れ、重心がどう崩れるのかという内側の感覚を知らなければ、動きを読ませない武術としては成立しません。悟空の猿マネは、目に見える形を写し取ることにかけては天才的ですが、自分の中に手本が存在しないものは写し取れない。酔拳は、その限界を的確に突いた技だったと言えます。

ちなみに、酔拳と猿という組み合わせからは、ジャッキー・チェンの出世作として知られる映画『ドランクモンキー 酔拳』を思い出す方も多いと思います。名前からしてジャッキー・チェンを連想させるジャッキー・チュンが酔拳を使い、その回のサブタイトルに「猿」が入っている。鳥山先生がどこまで意識したかは分かりませんが、偶然にしては出来すぎた取り合わせです。

じいちゃんの酔拳──孫悟飯という見えない第三者

この回にはもう一つ、見落としがちな一言があります。酔拳を見た悟空が、死んだじいちゃんも得意だったと口にする場面です。
孫悟飯は、かつて亀仙人の弟子だった人物です。悟空は酔拳を「見たことがある」のに、「真似はできない」。つまり、この技は悟空にとって未知の技ではなく、祖父という大人の世界に属する技だったことになります。

悟飯が酔拳を誰から学んだのかは、作中では描かれていません。ですから、亀仙人が悟飯に教えた技である可能性も、悟飯が独自に身につけた可能性もあります。ただ、もし前者だとすれば、この場面の構図はなかなか味わい深いものになります。亀仙人は、かつての弟子の得意技を、その孫にぶつけていることになるからです。ここは推測の域を出ませんが、師弟三代の線がこの一言で静かにつながったと読むこともできると思います。

狂拳──猿マネが止まった場所で生まれたもの

真似できない技に一方的に打たれた悟空が出した答えが、狂拳でした。公式サイトは、悟空が酔拳に対抗するためにその場で思いついた技であり、野生児の悟空ならではの技だと紹介しています。

ここで注目したいのは、悟空が「真似できないものを無理に真似る」のをやめて、「自分が知っているもの」に切り替えたことです。祖父を亡くしてから山奥で一人で暮らしてきた悟空にとって、牙をむいて襲いかかる獣の動きは、酒に酔う感覚よりもはるかに身近なものだったはずです。ジャッキーが大人の経験を武器にしたのに対して、悟空は野生の経験で応じたわけです。

決勝戦が始まってから悟空が使った技を振り返ると、かめはめ波も残像拳も、もとはジャッキーの技でした。狂拳は、この決勝戦で悟空が初めて出した、誰からも借りていない技です。猿マネが封じられたその場所で、悟空はオリジナルを生み出した。其之四十八は、模倣の天才が創作者に変わる瞬間を描いた回だと言えます。

そしてあらためてサブタイトルに戻ると、この回で行われていることは、すべてが何かの「マネ」です。悟空はジャッキーの残像拳を真似し、ジャッキーは酔っ払いを真似し、悟空は狂犬を真似しました。中国武術には、動物や酔っ払いの動きを模した「象形拳」と呼ばれる系統がありますが、この回の攻防はまさにその見本市のようです。肝心の「猿」の真似だけが、次回の猿拳まで取っておかれています。

おわりに

其之四十八は、悟空の「猿マネ」が三つの段階を踏んだ回でした。まず、見た技に一つ上乗せして返す。次に、真似できない技にぶつかって打ちのめされる。そして最後に、真似をやめて自分の中にあるものから新しい技を生み出す。

かめはめ波の相殺で力の差がないことが分かった師弟は、この回で知恵比べと騙し合いに突入しました。狂拳で一歩先を行った悟空に、ジャッキーはどう応じるのか。そしてサブタイトルがお預けにした「猿」は、いつ姿を現すのか。次回、其之四十九「武天老師の逆襲」で、決勝戦はさらに混沌としていきます。

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